契約書チェックを依頼するプロンプト集
契約書を1本チェックするのに、いま何分かかっているだろうか。 読み込み・自社ひな形との突き合わせ・気になる条項のメモ書き。この一次作業の 大半はAIに任せられる。任せられないのは、その条項が実際に不利かどうか、 締結してよいかという法的な最終判断である。ここを取り違えると、 AIの回答をそのまま「問題なし」と扱ってしまう危険がある。 この記事では、一次チェックの段階で使える指示文(プロンプト)を5本、 コピーして使える形で紹介する。
契約書チェックでAIに任せられるのはどこまでか
契約書チェックの工程を分けると、AIに向く部分と向かない部分がはっきりする。
| 工程 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 1. 契約書の受領・読み込み | 相手方から届いた契約書をテキストとして用意する | 人 |
| 2. 条項の洗い出し・要約 | 各条項が何を定めているかを一覧にする | AI |
| 3. 自社ひな形との差分比較 | 通常の取引条件と違う箇所を突き合わせる | AI |
| 4. 気になる条項へのフラグ立て | 一般的に確認されやすい論点(解除・損害賠償・期間など)を洗い出す | AI |
| 5. 法的リスクの評価・最終判断 | フラグが立った条項が実際に問題になるかを判断する | 人(弁護士・社内の責任者) |
| 6. 相手方との交渉方針の決定 | 修正を求めるか、条件のまま締結するかを決める | 人 |
| 7. 締結の承認 | 契約書に押印・署名してよいと決裁する | 人 |
AIが力を発揮するのは「大量の条項を読んで、論点を洗い出す」段階である。 この記事で紹介する指示文は、いずれもこの段階までしか行わない設計にしている。 契約書の内容が法的に問題かどうかは、AIの回答をそのまま結論にせず、 社内の責任者や弁護士が確認する前提で使う。
契約書チェックで何時間減るのか
一般的な業務量から試算すると、AIに一次チェックを任せた場合の作業時間は 次のようになる。前提は、A4で5〜10ページ程度の業務委託契約書を 1本チェックするケースである。
| 作業 | いまの時間 | AI下読み後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 契約書の通読・条項の要約メモ作成 | 60分 | 15分 | 45分 |
| 自社ひな形との差分比較 | 40分 | 10分 | 30分 |
| 気になる条項のフラグ立て | 30分 | 10分 | 20分 |
| フラグが立った条項の法的判断(人が実施) | 30分 | 30分 | 0分 |
試算の前提:契約書がテキストとして読み込める状態(PDFのコピー貼り付け またはテキスト化済み)からの作業時間を想定している。手書き・スキャン画像で 文字が読み取れない契約書は、先にテキスト化する作業が別途必要になる。 法的判断の工程は省略できないため時間は変わらない。
差し引きで、要約・差分比較・フラグ立ての3工程はおよそ130分から 35分に短縮される計算になる。契約書1本あたり約95分、月に4本 チェックする部署であれば月6時間ほどが目安になる。実際の削減幅は 契約書の分量や独自条項の多さによって変わる。
そのまま使える指示文5本
指示文1:契約書の条項を一覧にして要約する
契約書全体をまず条項ごとに整理し、何が定められているかを ざっと把握するための指示文。
以下は業務委託契約書です。条項ごとに「条項名」「定めている内容の
1〜2文要約」を一覧にしてください。
条件:
- 条項の順番どおりに並べる
- 要約は原文の言い換えにとどめ、法的な評価(問題がある・ないなど)
は書かない
- 契約書に書かれていない内容を推測して補わない
- 金額・期間・日数などの数値は、要約とは別に原文の表記のまま
抜き出す
---
(契約書の本文を貼り付ける)
---
この段階では「読みやすく整理する」ことだけが目的である。 法的評価を混ぜないよう指示しているのは、AIが自信ありげに 「この条項は問題ありません」と書いてしまうことを避けるためである。
指示文2:自社ひな形との差分を洗い出す
普段使っている自社の契約書ひな形と、相手方から届いた契約書を 突き合わせ、条件が違う箇所を一覧にする指示文。
以下は2つの契約書です。1つ目は自社で通常使っているひな形、
2つ目は相手方から届いた契約書です。両者を条項ごとに突き合わせ、
内容が異なる箇所を一覧にしてください。
条件:
- 「条項名」「ひな形の内容」「相手方案の内容」「違いの種類
(金額・期間・責任範囲・その他)」をセットで書く
- 表現の言い回しだけの違い(意味が同じもの)は対象外にする
- どちらの条件が自社にとって有利かの判断はしない
---
(自社ひな形の本文を貼り付ける)
---
(相手方の契約書の本文を貼り付ける)
---
有利・不利の判断をさせないのは、契約の背景(今回だけ譲歩している、 将来の取引を見込んでいるなど)をAIが知らないためである。 差分の一覧だけを先に出させ、有利不利の判断は事情を知る人が行う。
指示文3:一般的に確認される論点にフラグを立てる
契約実務で確認漏れが起きやすい論点(解除条件・損害賠償・期間・ 知的財産の帰属など)を軸に、契約書の該当箇所を洗い出す指示文。
以下は業務委託契約書です。契約実務で一般的に確認される
次の論点について、該当する条項があれば引用し、無ければ
「記載なし」と明記してください。
確認する論点:
- 契約の解除条件(どちらから、どんな場合に解除できるか)
- 損害賠償の上限の有無
- 契約期間と自動更新の有無
- 成果物・知的財産の帰属
- 秘密保持の範囲と期間
- 中途解約時の費用精算方法
条件:
- 各論点について「条項がある場合は引用」「無い場合は記載なし」
のどちらかで答える
- この契約が自社にとって有利か不利かの判断はしない
- 論点以外の気になる条項があれば、末尾に別枠で列挙してよい
---
(契約書の本文を貼り付ける)
---
このリストは一般的な確認観点であり、業種や取引内容によって 確認すべき論点は変わる。ここで洗い出した箇所を材料に、 社内の責任者や弁護士が最終的な判断をする流れにする。
指示文4:重要な条件を一覧化する
金額・期間・支払い条件など、締結前に必ず確認する数値情報だけを 抜き出して一覧にする指示文。
以下は契約書です。次の項目を契約書の記載どおりに抜き出して
一覧にしてください。
抜き出す項目:
- 契約金額(税込・税抜の別も分かれば記載)
- 支払期日・支払方法
- 契約期間(開始日・終了日)
- 契約更新の有無と更新時の手続き
- 中途解約の予告期間
条件:
- 記載が無い項目は「記載なし」とする
- 数値・日付は契約書の表記をそのまま使う(言い換えない)
- 一覧化のみを行い、条件についてのコメントは付けない
---
(契約書の本文を貼り付ける)
---
金額や期日は転記ミスが起きやすい箇所である。AIに抜き出させたあとも、 必ず原文と突き合わせて確認する。
指示文5:相手方に確認すべき質問リストを作る
契約書を読んで意味が取りにくい箇所や、記載が曖昧な箇所を、 相手方に確認するための質問文に変換する指示文。
以下は相手方から届いた契約書です。この契約書を読んで、
意味が取りにくい箇所・記載が曖昧な箇所・自社ひな形と違う条件が
ある箇所について、相手方に確認するための質問を作成してください。
条件:
- 質問は1条項につき1〜2個にまとめる
- どの条項についての質問かを明記する
- 相手を責めるような表現は使わず、確認を求める丁寧な文にする
- この契約が問題かどうかの評価は書かず、質問文のみを出力する
---
(契約書の本文を貼り付ける)
---
社内での検討が終わったあと、相手方とのやり取りの下書きとして使う。 実際に送る前に、社内の責任者が質問内容と表現を確認する。
契約書チェックでよくある失敗
- AIの回答を法的な結論として扱ってしまう:AIが「問題ありません」 「一般的な条件です」と答えても、それは条項を洗い出した結果であり、 法的な保証ではない
- 契約書全体をAIに丸ごと最終判断させる:フラグを立てさせるところまでが AIの役割で、フラグが立った条項の重要度を決めるのは人である
- 機密性の高い契約書をそのまま外部ツールに貼り付ける:取引先の名称や 金額を含む契約書を扱う場合、利用しているAIツールが入力内容を 学習に使わない設定になっているかを先に確認する必要がある
- 差分比較の結果を有利・不利の判定だと誤解する:指示文2・3は 違いの一覧を出すだけで、どちらが有利かは書かせていない
これらはいずれも、条項を整理する作業と、その条項の重要度を 判断する作業を同じ工程だと思い込んだときに起きている。
契約書チェックAIを始める順番
いきなり重要な契約書から試すのではなく、次の順番で始めると 失敗しにくい。
- すでに締結済みの契約書で試す(結果を照らし合わせられる ものから始める)
- 指示文1で条項の要約を作らせ、原文と見比べる(AIが 何を見落としやすいかを把握する)
- 自社ひな形がある契約類型から指示文2を試す
- フラグが立った条項を、実際に社内の責任者が確認する
- 問題なければ、新規の契約書チェックの一次作業として使い始める
- 重要度の高い契約(多額の取引・長期契約)は、最終判断を 従来どおり弁護士に依頼する
最初から重要な契約書の最終判断まで任せようとすると、 見落としに気づかないまま締結してしまう危険がある。 一次作業に絞って使い始め、判断の精度を見ながら範囲を広げる。
よくある質問
Q. AIに契約書をチェックさせれば、弁護士に相談しなくてよくなりますか。 ならない。AIが行えるのは条項の洗い出しや一般的な論点へのフラグ立てまでで、 実際に法的リスクがあるかどうかの判断は、弁護士や社内の責任者が行う。 特に金額が大きい契約や、初めて取引する相手との契約は、 最終確認を省略しない。
Q. 契約書の内容を外部のAIツールに入力しても情報漏えいにならないですか。 利用しているAIツールが入力内容を学習に使う設定になっているかどうかで リスクが変わる。学習利用のオン/オフは、利用しているAIツールの利用規約と 管理画面・設定画面で確認する(2026年9月時点、設定名はツールにより異なる)。 契約書には取引先名・金額など 機密性の高い情報が含まれるため、法人向けプランで学習除外の設定が できるものを使うか、固有名詞を仮の名称に置き換えてから入力する。
Q. 秘密保持契約(NDA)が結ばれている相手との契約書も、AIに読み込ませて よいですか。 NDAの内容によって判断が変わる。第三者への開示を禁じる条項がある場合、 外部のAIツールへの入力が「第三者への開示」に当たるかどうかを、 締結しているNDAの開示禁止条項の文言と、利用するAIツールの公式の データ取り扱い方針を突き合わせて確認する。判断に迷う場合は 弁護士に相談する。
Q. スキャンした紙の契約書もそのままAIに読み込ませられますか。 ツールによって画像から直接文字を読み取れるかどうかが異なる。 画像・PDFの読み取りに対応しているかは、利用しているAIツールの 公式ドキュメントで最新の対応状況を確認する。対応していない場合は、 テキスト化してから指示文に貼り付ける。
Q. 従業員数名の小さな会社でも、契約書チェックにAIを使う意味はありますか。 ある。専任の法務担当がいない会社ほど、契約書の一次チェックが 後回しになりやすい。指示文1・3で論点を洗い出しておくだけでも、 何を確認すべきかが明確になり、外部の弁護士に相談する際の 準備時間も短くなる。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. 契約書の条項を洗い出し、気になる箇所にフラグを立てる作業はAIに任せられる。
○ — AIは条項の一覧化やフラグ立てまでは得意だが、そのリスクが法的に問題かどうかの判断は人が行う(本文参照)。
Q2. 契約書の法的リスクが実際に問題になるかどうかの最終判断は、AIに任せてよい。
× — AIは論点を洗い出すところまでで、法的な最終判断は弁護士や社内の責任者が行う必要がある(本文参照)。
Q3. 自社のひな形と相手方から届いた契約書の文言の違いを一覧にする作業はAIに任せられる。
○ — 文言同士を突き合わせて差分をリストにする作業は機械的な比較であり、AIに任せやすい(本文参照)。