ホーム記事残業時間を減らしたい会社が、AIで最初に見るべき業務
経営

残業時間を減らしたい会社が、AIで最初に見るべき業務

結論

残業を減らしたい会社が最初にやりがちな失敗は、「残業が多い部署」丸ごとにAIを当てはめることです。 見るべきは部署ではなく業務単位で、「頻度が高く」「判断より作業が中心」の業務から着手するほうが、 早い段階で効果が出やすくなります。一般的な業務量から試算すると、対象を絞らずに手を広げた会社ほど、 最初の数ヶ月で効果を実感できないまま止まりやすい傾向があります。判断が必要な業務 (与信判断・契約条件の調整・新規提案のロジック構築など)は、残業時間が長くても 最初の対象には向きません。

残業が減らないのは「量」より「探す・思い出す時間」であることが多い

残業の中身を分解すると、作業そのものより「思い出す」「探す」「まとめ直す」時間が 占める割合が大きいケースが目立ちます。日報を読んで進捗を頭の中で集計する、 過去の類似案件を記憶とファイルの中から探す、会議の録音を聞き直して議事録に清書する。 どれも作業量そのものは大きくないのに、思い出す・探す工程が挟まることで時間が伸びます。

この「思い出す・探す」工程は、AIが得意とする「大量の情報から拾い出す」作業と近く、 最初に着手する候補になりやすい部分です。逆に、金額や納期を最終的に決める判断、 取引先との関係を踏まえた交渉は、AIに拾い出させても最後は人が決める工程が残ります。

最初に見るべき業務の3条件

残業削減の対象として最初に選ぶ業務は、次の3条件が揃っているかで判断します。

  1. 頻度が高い: 毎日・毎週など、繰り返し発生する業務であること
  2. 1回あたりの時間が計測しやすい: 「だいたい何分かかっている」と答えられる業務であること
  3. 判断より拾い出し・整形が中心: 「情報を集めて形にする」作業が主で、 「決める」作業が主ではないこと

3つがすべて揃う業務ほど、着手した効果が早く数字に表れます。逆に、頻度が高くても 毎回前提が大きく変わり判断が必要な業務(特殊対応の多い交渉業務など)は、 最初の対象には向きません。

業務ごとの残業インパクトを比較する

一般的な中小企業(従業員30〜50名程度)の業務量から試算すると、 残業の原因になりやすい業務は次のように整理できます。

業務 頻度 いまの時間(月・1人あたり) AI化後(月)
日報の集計・要約 毎日 約13時間 約4時間 約9時間
問い合わせ内容のFAQ化 都度 約18時間 約7時間 約11時間
見積書の項目候補出し(月40件想定) 案件都度 約19時間 約5時間 約14時間
会議の議事録作成 会議都度(週2回想定) 約8時間 約2時間 約6時間
与信判断・契約条件の調整 都度 削減対象外
新規提案のロジック構築 都度 削減対象外

試算の前提は次のとおりです。部下10人の日報を読む管理職1人、月40件の見積依頼を 担当する営業1人、週2回1時間の会議に対して清書時間が発生するケースを想定しています。 上4業務を同時に見直せる会社では、合計で月約40時間(9+11+14+6時間)の削減余地がある計算になります。 判断が中心の2業務は、時間の一部を圧縮できる可能性はあっても、最終確認・意思決定の 時間そのものは残るため「削減対象外」としています。実際の削減幅は、社員数・業務量・ 現在のツール活用状況によって変わるため、あくまで目安です。

判断業務とAI化しやすい業務の境界線

同じ「時間がかかっている業務」でも、境界線は「その業務の中心が拾い出しか、決定か」です。

業務 頻度 判断の要否 最初の対象に向くか
日報の集計・要約 高(毎日) 低(拾い出し中心) 向く
問い合わせのFAQ化 中〜高 低(分類中心) 向く
見積書の項目候補出し 中(案件都度) 低〜中(パターン照合中心) 向く
会議の議事録作成 中(会議都度) 低(要約中心) 向く
与信判断・契約条件の調整 低〜中 高(関係性・利益率の判断) 向かない
新規提案のロジック構築 高(顧客理解・戦略の判断) 向かない

「向かない」業務にAIをまったく使えないわけではありません。情報を整理する部分 (過去の取引履歴をまとめる、提案の材料を集めるなど)はAIに任せられますが、 最終的に決める部分は人が残るため、残業時間そのものは大きくは減りません。 最初の対象からは外すべき業務、という位置づけです。

実際にどう選ぶか

自社でどの業務から着手するかを決める手順は、次のとおりです。

  1. 残業時間の記録がある部署・個人から、業務ごとの時間を書き出す。 「残業が多い」という印象ではなく、どの業務にどれだけ時間を使っているかを分解します
  2. 頻度×1回あたりの時間で、月間の合計時間を業務ごとに並べる。 合計時間が大きい業務ほど、削減できたときの効果も大きくなります
  3. その業務が「判断」中心か「拾い出し」中心かを仕分ける。 上の表の3条件に照らして、判断が中心の業務は候補から外します
  4. 残った業務の中から、1つだけ選んで試す。 複数の業務を同時に始めると、どの変更が効果を生んだか判断できなくなります
  5. 1〜2ヶ月で効果を確認してから、次の業務に対象を広げる。 最初の1業務で削減時間を実測してから、社内に展開する範囲を決めます

選び方を間違えたときに起きること

  • 残業が多い部署丸ごとに手を付ける: 部署内には判断業務と作業業務が混在しているため、 一括で着手すると成果が見えにくく、途中で取り組みが止まりやすくなります
  • 判断業務からAI化を始める: 与信判断や契約交渉のような業務は、情報整理の時間は 減らせても最終判断の時間は残るため、期待したほど残業が減りません
  • 複数業務を同時に始める: どの施策が効いたのか検証できず、次の投資判断ができなくなります
  • 頻度が低い業務を選ぶ: 1回あたりの時間が大きくても、月に数回しか発生しない業務では 効果を実感するまでに時間がかかり、取り組みが評価されにくくなります

よくある質問

Q. 残業時間が特に長い部署から着手すべきではないのですか。 A. 部署単位ではなく業務単位で選ぶほうが効果が見えやすくなります。残業が長い部署でも、 その中に判断業務と作業業務が混在していることが多く、部署丸ごとでは何が効いたか 分からなくなります。

Q. どの業務から手を付けるか、社内で意見が分かれた場合はどうすればよいですか。 A. 印象ではなく、業務ごとの月間時間を書き出して比較することをすすめます。 数字で並べると、頻度と時間の大きい業務が自然と絞られます。

Q. 1つの業務で効果が出たら、次はどう選べばよいですか。 A. 同じ3条件(頻度・計測しやすさ・判断より拾い出しが中心)で次点だった業務を選びます。 効果が出た業務の担当者に、次の候補選びを手伝ってもらう進め方も有効です。

Q. 判断業務は将来的にもAI化できないのですか。 A. 判断そのものを丸ごと任せることは想定していません。ただし、判断に使う材料を 整理する部分(過去の類似案件のまとめなど)はAIに任せられるため、判断業務の 一部の負担は軽くできます。

Q. 従業員数が少ない会社でも、この考え方は当てはまりますか。 A. 当てはまります。人数が少ないほど1人あたりの業務範囲が広くなりがちで、 頻度が高く判断を伴わない業務を1つ見つけて着手する効果は、むしろ出やすくなります。

理解度チェック

読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。

Q1. 残業を減らす目的でAIに任せる業務を選ぶときは、頻度が高く判断を伴わない業務から着手するのが基本である。

— 本文で、最初に見るべき業務の条件として頻度の高さと判断を伴わないことを挙げている。

Q2. 残業時間が長い部署であれば、業務内容を分解せずに部署丸ごとAI化を進めるのが効率的である。

× — 本文で、見るべきは部署ではなく業務単位であり、部署丸ごとの着手は失敗しやすいと述べている。

Q3. 頻度が高くても、案件ごとに前提が大きく変わり毎回判断が必要な業務は、最初に着手する対象には向かない。

— 本文で、判断が中心の業務は残業時間が長くても最初の対象には向かないと述べている。