業務棚卸しシートの作り方(記入例つき)

業務棚卸しシートは、社内の業務を「作業名・頻度・時間・判断の要否」の4項目で 1行ずつ書き出す表です。これが無いまま「AIを導入しよう」と言っても、 何にどれだけ時間を使っているかが誰も答えられず、話が進みません。 作るのに1部門あたり半日〜1日が目安です。これを作った時点で AI化できる業務とできない業務の境目がほぼ見えます。 この記事では列の設計から、経理・営業・総務3部門分の記入例まで載せています。
業務棚卸しシートには何を書くのか
書く項目は多くしすぎないほうがうまくいきます。項目を増やすほど、 記入する社員の負担が増えて途中で止まります。最低限必要なのは次の6列です。
| 列 | 書く内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 業務名 | 作業の単位を動詞で書く | 請求書の内容チェック |
| 頻度 | 1日・週・月のどれか | 週20件 |
| 所要時間 | 1回あたりの時間 | 5分 |
| 判断の有無 | 決めごとが要るか | 無し(形式チェックのみ) |
| 使う情報 | どこから何を見るか | 請求書PDF、取引先マスタ |
| 担当者 | 誰がやっているか | 経理担当1名 |
「判断の有無」が一番重要です。金額の妥当性や取引先との関係性など、 人が決めている作業には「有り」と書きます。ここが「無し」の業務ほど、 AIに任せやすい業務です。
シートを作る手順
- 部門ごとに分けて作る。 全社1枚にすると誰も自分の業務として書き込みません
- 1週間分の実際の作業をそのまま書き出す。 「たぶんこう」ではなく、 その週にやったことをメモしながら埋めます
- 頻度と時間は目安でよい。 秒単位の正確さは不要です。週の合計時間が だいたい合っていれば十分です
- 判断の有無は本人ではなく、上長も一緒に確認する。 本人は「自分で 決めている」と思っていても、実際は決まった基準に沿っているだけ、 というケースがよくあります
半日で終わらせようとすると、記憶に頼った粗い表になります。 1週間、手元にメモを置いて書き足していく方法のほうが、実際の時間に近づきます。
記入例:経理部門
| 業務名 | 頻度 | 所要時間 | 判断の有無 | 使う情報 |
|---|---|---|---|---|
| 請求書の内容チェック | 週20件 | 5分/件 | 無し(記載漏れの確認のみ) | 請求書PDF、取引先マスタ |
| 月次レポートの下書き作成 | 月1回 | 60分 | 有り(増減理由の解釈) | 売上・経費の集計データ |
| 経費精算の申請内容チェック | 週15件 | 3分/件 | 無し(領収書の形式確認) | 経費精算申請、領収書画像 |
| 未払い先への督促連絡 | 月5件 | 15分/件 | 有り(相手との関係を踏まえた文面判断) | 支払い状況一覧 |
| 勘定科目の判定 | 週10件 | 10分/件 | 有り(最終判断は人) | 取引内容メモ |
この表だけで、5行のうち「請求書チェック」と「経費精算チェック」の2行は 判断が要らない形式確認だとわかります。この2つがAI化の候補です。
記入例:営業部門
| 業務名 | 頻度 | 所要時間 | 判断の有無 | 使う情報 |
|---|---|---|---|---|
| 商談議事録の要約 | 週8件 | 20分/件 | 無し(話した内容の整理のみ) | 商談メモ、録音データ |
| 提案書の構成案作成 | 週3件 | 45分/件 | 有り(相手に合わせた訴求の選択) | 相手企業の情報、過去の提案書 |
| フォローメールの下書き | 週10件 | 10分/件 | 無し(定型に近い文面) | 商談の要点メモ |
| 見積内容の説明文作成 | 週5件 | 15分/件 | 無し(金額内訳の言い換え) | 見積書 |
| 価格交渉の判断 | 週3件 | 30分/件 | 有り(値引き幅の決定) | 過去の取引条件 |
営業は「作成」と「判断」が混ざりやすい部門です。同じ「提案書」でも、 構成案を作る部分と、相手に合わせて訴求を選ぶ部分は分けて書きます。 分けずに1行で書くと、判断が要る業務まで丸ごとAI化候補に見えてしまいます。
記入例:総務部門
| 業務名 | 頻度 | 所要時間 | 判断の有無 | 使う情報 |
|---|---|---|---|---|
| 備品発注メールの作成 | 週3件 | 10分/件 | 無し(発注先・品目・数量の連絡) | 発注リスト |
| 社内お知らせ文の作成 | 月4件 | 20分/件 | 無し(決定事項の周知) | 決定事項メモ |
| 社内規程のたたき台作成 | 月1回 | 90分 | 有り(最終確認は専門家) | 既存規程、変更点メモ |
| 来客対応マニュアルの更新 | 年2回 | 40分 | 無し(手順の言語化) | 実際の対応手順 |
| 社内アンケートの設問作成 | 月1回 | 30分 | 有り(何を聞くかの設計) | 調査テーマ |
総務は頻度が低い業務が多く、後回しにされがちです。ただし1回あたりの 時間が長い業務(規程たたき台の90分など)は、頻度が低くても 年間で見ると積み上がります。頻度だけでなく年間合計時間で見る列を 追加してもよいでしょう。
棚卸し後、どうやってAI化の候補を絞るか
シートが埋まったら、次の2つの条件で絞り込みます。
- 判断の有無が「無し」の行を先に見る。 形式確認・言い換え・要約・ 定型文の作成は、任せやすい業務の典型です
- 頻度×所要時間が大きい行を優先する。 週1回5分の業務より、 週10回15分の業務のほうが、削減できる時間の絶対量が大きくなります
一般的な業務量から試算すると、従業員数十名規模の会社で1部門あたり 20〜30行のシートを作ると、そのうち5〜8行が「判断無し・頻度高い」に 該当することが多いです。この5〜8行から着手すると、 最初の効果を実感しやすくなります。
判断が「有り」の行は、シートに残しておくだけで構いません。 将来、判断の基準がルール化できれば、その時点で候補に加われます。 最初から無理に減らそうとしないことが、シートを形骸化させないコツです。
よくある失敗
- 1回で完璧な表を作ろうとして止まる。 最初は粗くてよく、 週次で更新しながら精度を上げます
- 本人だけに書かせて、上長が確認しない。 判断の有無の記入がぶれます
- 忙しい部門ほど後回しにする。 忙しい部門ほど、 棚卸しをすると削減できる時間が大きい傾向にあります
- シートを作った後、誰も見返さない。 月1回、更新と見直しの タイミングを決めておかないと、作った時点で止まります
よくある質問
Q. 業務棚卸しシートは何人日くらいで作れますか。 1部門・従業員5〜10名規模であれば、担当者の記入に半日〜1日、 上長との確認に1〜2時間が目安です。全社で作る場合は部門数だけ この作業が並行して発生します。
Q. Excel(表計算ソフト)とAIツール、どちらで作るべきですか。 最初はExcelやスプレッドシートで十分です。行を追加・並べ替えしやすく、 関数で頻度×時間の合計も出せます。AIツールは、シートが埋まった後の 「この業務は任せられるか」の相談相手として使う形が向いています。
Q. 判断の有無がどちらか迷う業務はどうすればよいですか。 迷う場合は「有り」に寄せて記入します。後から「無しでよかった」と 分かるほうが、逆より安全です。実際にAI化を試したうえで、 判断が要らないと確認できた時点で書き換えます。
Q. シートは誰が管理すればよいですか。 部門ごとの棚卸しは各部門の責任者が更新し、全社の集計は 経営に近い立場の人がまとめる形が扱いやすいです。1人がすべての 部門を書き出そうとすると、実態と離れた表になりやすいためです。
Q. 棚卸しシートを作った後、次は何をすればよいですか。 判断無し・頻度高いに絞った行から、実際にAIツールを試す段階に進みます。 自社のシートでどれだけの時間が減らせそうかは、無料のAI業務診断で概算できます。