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経営

売上は伸びているのに利益が残らない会社の事務コスト

結論

売上が伸びているのに利益が残らない会社を見ると、原価や人件費だけでなく 「事務作業の時間」が売上と一緒に膨らんでいるケースが目立ちます。 見積書、請求書、受発注のメール、問い合わせ対応。案件数が増えるほど、 これらの件数も比例して増えますが、多くの会社はこの時間を原価としても 販管費としても意識的に管理していません。一般的な業務量から試算すると、 売上が1.5倍になった会社では、事務作業の時間も同程度のペースで増えている 計算になります(後述の試算)。この記事では、どの事務作業が利益を圧迫しやすいか、 どこから減らせるかを整理します。

売上が伸びても利益が残らないのは、なぜか

原価や人件費の上昇は、多くの会社が決算書の数字として把握しています。 一方で、「見積書を1件作るのに何分かかっているか」「請求書の発行にどれだけ 人の手が入っているか」を数字で把握している会社は多くありません。

売上が増えるということは、案件数・取引先数・問い合わせ件数が増えるという ことでもあります。それに伴って発生する事務作業は、粗利が増える速さと同じ 速さで増えていきます。この事務作業にかかる時間は、多くの場合、既存の 社員の残業や休日出勤で吸収されるため、決算書のどこにも「事務コストの増加」 という項目としては表れません。粗利は伸びているのに、営業利益が伸び悩む 会社では、この見えにくい部分が原因になっていることがあります。

売上に比例して増える「見えない事務コスト」の正体

事務コストが見えにくいのは、複数の業務に分散しているためです。 代表的なものを挙げると、次のようになります。

  • 見積書の作成: 案件が増えるほど、見積の依頼件数も増える
  • 請求書の発行と入金確認: 取引先が増えるほど、発行件数と消込作業が増える
  • 受発注のメール処理: 注文が増えるほど、確認・登録の作業が増える
  • 問い合わせ対応: 顧客が増えるほど、電話・メールでの一次対応が増える
  • 社内の進捗確認・報告: 案件数が増えるほど、状況を把握するための やりとり自体が増える

これらは1件あたりの作業時間は小さくても、件数が増えると合計時間が 大きく膨らみます。しかも、担当者を増やさずに既存の社員が兼務でこなす ことが多いため、「忙しくなった」という体感はあっても、コストとしては 可視化されにくい構造になっています。

事務コストが利益を圧迫する仕組み

事務コストの増加が利益を圧迫する経路は、大きく2つに分かれます。

1つ目は、残業代として直接コストに乗る経路です。事務作業の時間が 増えた分だけ残業時間が伸びれば、その分の人件費が販管費を押し上げます。

2つ目は、より見えにくい経路で、社員が事務作業に時間を取られることで、 本来であれば売上や粗利を伸ばすはずだった時間(営業活動、提案づくり、 新規開拓)が削られることです。この機会損失は決算書には出てきませんが、 「売上は伸びているのに、伸び方が鈍い」という形で現れることがあります。

売上が増えているのに利益が残らない原因は、原価や人件費の単価上昇だけ とは限りません。事務作業の時間そのものが、売上の伸びに引っ張られて 増えている可能性を、まず疑う価値があります。

業務ごとの時間試算

一般的な中小企業(従業員30〜50名程度、売上が過去1〜2年で1.5倍に 増加したケースを想定)の業務量から試算すると、事務作業の時間は 次のように整理できます。

業務 いまの時間(月・全社) AI化後(月)
見積書の作成(月80件想定) 約40時間 約14時間 約26時間
請求書の発行・入金消込(月60件想定) 約24時間 約9時間 約15時間
受発注メールの確認・登録(月200件想定) 約33時間 約13時間 約20時間
問い合わせの一次対応(月150件想定) 約25時間 約10時間 約15時間
与信判断・取引条件の交渉 - - 削減対象外

試算の前提は次のとおりです。見積1件あたり約30分、請求書1件あたり 約24分、受発注メール1件あたり約10分、問い合わせ1件あたり約10分の 作業時間を見込み、それぞれ拾い出し・入力・照合が中心の部分をAIに 任せた場合の削減率(見積は6.5割前後、受発注・問い合わせは6割前後、 請求は6〜6.5割前後)で計算しています。上4業務を同時に見直せる会社では、 合計で月約76時間(26+15+20+15時間)の削減余地がある計算になります。 与信判断や取引条件の交渉は、情報整理の時間は圧縮できても最終判断の 時間そのものは残るため、削減対象外としています。実際の削減幅は、 案件の複雑さや現在の書式・システムによって変わるため、あくまで目安です。

どこから手をつけるか

事務コストの削減は、すべての業務に同時に手を付けると効果が見えにくく なります。優先順位は、次の2軸で決めます。

  1. 件数の伸びが大きい業務から見る: 売上の伸びに比例して件数が 増えている業務ほど、放置すると事務コストがさらに膨らみます
  2. 判断より拾い出し・転記が中心の業務から見る: 見積の項目候補出し、 請求書の転記、受発注メールの内容確認は、情報を集めて形にする作業が 中心で、AIに任せやすい部分です。一方、値引きの可否や取引条件の 交渉は、最終的に人が決める判断が中心で、削減効果は限定的です

自社でどの業務から着手するかを決めるには、まず直近半年の案件数・ 請求件数・問い合わせ件数の推移を確認し、売上の伸び以上に件数が 増えている業務を洗い出すところから始めます。

事務コスト削減を進める手順

  1. 業務ごとの件数と時間を書き出す。 「忙しくなった」という印象では なく、月間の件数と1件あたりの所要時間を数字で並べます
  2. 売上の伸び率と、業務ごとの件数の伸び率を比べる。 売上以上に 件数が伸びている業務ほど、放置した場合の悪化が早くなります
  3. 判断が中心の業務を対象から外す。 与信・価格交渉のような業務は、 最初の対象には向きません
  4. 残った業務から1つだけ選んで試す。 複数の業務を同時に始めると、 どの取り組みが効果を生んだか判断できなくなります
  5. 1〜2ヶ月で削減時間を確認してから、次の業務に広げる。 実測した 削減時間をもとに、対象を広げるかどうかを判断します

進め方を間違えたときに起きること

  • 売上が伸びている間は事務コストを放置する: 件数が増え続けるほど 後から着手する負担が大きくなり、対応が後手に回りやすくなります
  • 判断業務から着手する: 与信判断や価格交渉は情報整理の時間は 減らせても最終判断の時間は残るため、期待したほど利益率は改善しません
  • 全業務を同時に見直す: どの施策が効いたのか検証できず、 次に何を優先すべきか判断できなくなります
  • 件数の記録を取らない: 感覚だけで「事務作業が増えた」と判断すると、 優先順位を誤りやすくなります

よくある質問

Q. 売上が伸びているのに利益が残らない原因は、事務コストだけですか。 A. そうとは限りません。原価や人件費の単価上昇、値引きの拡大など 他の要因も関係します。ただし、事務作業の時間が売上の伸びに比例して 増えている場合、その部分を可視化していない会社は珍しくありません。

Q. 事務コストが増えているかどうかは、どう確認すればよいですか。 A. 見積・請求・受発注・問い合わせなど、業務ごとの月間件数を過去 1〜2年分並べて、売上の伸び率と比べる方法があります。売上以上に 件数が伸びている業務があれば、その部分の時間コストが増えている 可能性があります。

Q. 事務コストを減らせば、すぐに利益は改善しますか。 A. 削減した時間がそのまま利益に直結するわけではありません。 残業時間の圧縮であれば人件費に反映されますが、既存社員の兼務で 吸収していた時間であれば、その時間を営業活動など粗利を生む業務に 振り向けて初めて利益への効果が出ます。

Q. 従業員数が少ない会社でも、この考え方は当てはまりますか。 A. 当てはまります。人数が少ない会社ほど、事務作業と営業活動を 同じ社員が兼務していることが多く、事務作業の時間を減らした分が そのまま営業活動に回りやすい傾向があります。

Q. どの事務作業から手を付けるべきか、社内で意見が分かれた場合は どうすればよいですか。 A. 印象ではなく、業務ごとの月間件数と所要時間を書き出して比較する ことをすすめます。売上の伸び率以上に件数が増えている業務が、 最初の候補になります。

理解度チェック

読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。

Q1. 売上が増えると、見積・請求・受発注などの事務作業の量も比例して増える傾向がある。

— 案件数が増えれば書類の発行件数・問い合わせ件数も増えるため、本文では事務作業は売上に連動して増えると説明している。

Q2. 売上が増えているのに利益が残らない場合、原因は必ず仕入れ値の上昇である。

× — 本文では、仕入れ値だけでなく、売上に比例して膨らむ事務作業の時間コストも利益を圧迫する要因として挙げている。

Q3. 与信判断や取引条件の交渉のような業務は、事務コスト削減の対象としてAIに任せるべきである。

× — 本文では、判断が中心の業務は最終確認の時間が残るため、削減対象からは外すべきだと述べている。