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経営

繁忙期だけ人が足りない会社のAI活用

結論

繁忙期だけ人が足りない会社が、なぜ通年で人を増やす選択をためらうのか。 理由は単純で、繁忙期に合わせて人を増やすと、閑散期にはその人員分の仕事が足りなくなるからです。 一般的な中小企業の業務量から試算すると、繁忙期に増える業務の多くは「件数が増えるだけで、 手順は変わらない」種類の作業です(後述の試算)。この記事では、繁忙期だけ人を増やす・ 派遣に頼る・残業で乗り切るという従来の3つの手に加えて、AIで平常時の業務を圧縮し、 浮いた人手を繁忙期に回すという4つ目の選択肢を整理します。値引き判断や特別対応の 可否のような、金額と信用が絡む業務は対象外です。

繁忙期だけ人が足りないのは、なぜ起きるのか

繁忙期の人手不足は、慢性的な人手不足とは原因が違います。慢性的な人手不足は 採用がうまくいかないことが原因ですが、繁忙期の人手不足は「業務量が一時的に 跳ね上がること」が原因です。

業種によって波の形は異なります。小売・ECはセール期、製造業は受注が集中する 特定の月、会計・税務は決算期、建設は年度末。共通しているのは、繁忙期の業務量が 一時的に増える一方、それに対応する人員は通年でほぼ一定という構造です。 (補足: 繁忙期の業務量が通常月の何倍に増えるかという業種横断の統計は、 中小企業庁の中小企業白書や業界団体の公表資料を確認した範囲では見当たりません でした。業種ごとに波の大きさが大きく異なるため、全国共通の倍率は存在しない とみられます)

この波に対して、平常時の人員のまま乗り切ろうとすると残業が増え、通年で 人を増やそうとすると閑散期に仕事が足りなくなります。どちらを選んでも、 どこかにしわ寄せが出る仕組みになっています。

繁忙期の人手不足に、いま使われている3つの手とその限界

繁忙期対策として、多くの会社が使っているのは次の3つです。

  1. 正社員を増やす: 繁忙期の業務量に合わせて採用すると、閑散期は その人員分の仕事が足りなくなります。人件費は年間を通じて固定でかかるため、 繁忙期の売上でその分を吸収できるかが課題になります
  2. 派遣・アルバイトを繁忙期だけ雇う: 採用・教育のコストが毎回かかり、 即戦力になるまでに時間がかかります。近年は繁忙期の求人自体が集まりにくく なっている業種もあります
  3. 既存社員の残業でしのぐ: 追加の採用コストはかかりませんが、 繁忙期が続くほど社員の疲労が蓄積し、ミスや離職につながりやすくなります

3つとも、繁忙期の業務量そのものを減らす手段ではなく、業務量に人員を 合わせる手段です。業務量そのものを減らせないかという視点が、 ここには入っていません。

AIで埋められるのは、繁忙期に量が増えるだけの業務

繁忙期に増える業務は、大きく2種類に分かれます。

  • 件数が増えるだけの業務: 受発注の入力、見積書の作成、請求書の発行、 問い合わせの一次対応。手順は平常時と同じで、処理する件数だけが増えます
  • 判断の重さが増す業務: 特別価格の可否、優先出荷の順番決め、 取引先ごとの与信の見直し。件数だけでなく、1件あたりの判断の難易度も 上がります

AIに任せやすいのは前者です。手順が決まっている作業は、件数が2倍になっても AIであれば処理時間はほぼ比例して増えるだけで、追加の教育コストは かかりません。後者は、情報を整理してAIが下書きを作ることはできても、 最終的に決めるのは人のままです。

業務ごとの時間試算

一般的な中小企業(従業員30〜50名程度、繁忙期が年2〜3ヶ月あり、 繁忙期の業務量が通常月の1.7倍程度に増えるケースを想定)の業務量から 試算すると、繁忙期に増える分の業務時間は次のように整理できます。

業務(繁忙期の増加分) いまの時間(月・全社) AI化後(月)
受発注の入力(繁忙期は月350件想定、平常月比+150件) 約25時間 約9時間 約16時間
見積書の作成(繁忙期は月90件想定、平常月比+35件) 約17時間 約6時間 約11時間
請求書の発行(繁忙期は月100件想定、平常月比+40件) 約16時間 約6時間 約10時間
問い合わせの一次対応(繁忙期は月250件想定、平常月比+90件) 約15時間 約6時間 約9時間
特別価格・優先出荷の判断 - - 削減対象外

試算の前提は次のとおりです。受発注1件あたり約10分、見積1件あたり 約12分、請求書1件あたり約10分、問い合わせ1件あたり約4分の作業時間を 見込み、いずれも増加分(平常月比の差)にAIを充てた場合の削減率 (受発注・請求書は6割前後、見積・問い合わせは6.5割前後)で計算しています。 4業務を同時に見直せる会社では、繁忙期の増加分だけで月約46時間 (16+11+10+9時間)の削減余地がある計算になります。これは、繁忙期 限定でパート・アルバイトを週10時間程度雇う場合の労働時間規模に近い 数字です(月46時間を4.3週で割ると週あたり約11時間)。特別価格や 優先出荷のような判断業務は、情報整理の時間は圧縮できても最終判断の 時間そのものは残るため、削減対象外としています。実際の削減幅は、 繁忙期の波の大きさや現在の業務フローによって変わるため、あくまで目安です。

繁忙期のタイプ別、AIの使い方

繁忙期の波の形によって、AIの使いどころは変わります。

  • セール・キャンペーン型(EC・小売): 受注件数と問い合わせ件数が 短期間に集中します。注文内容の確認・出荷指示書の作成・よくある質問への 一次回答をAIに任せると、繁忙期のピーク時間帯の負荷を分散できます
  • 受注集中型(製造業の特需・建設の年度末): 見積作成と発注書の 処理件数が増えます。図面や仕様書から見積項目の候補を拾い出す作業を AIに任せ、金額の最終判断だけ人が行う形にすると、見積のリードタイムを 縮められます
  • 決算・申告期型(会計・税務・経理代行): 転記・照合作業の件数が 集中します。証憑の読み取りと仕訳候補の作成をAIに任せ、最終確認だけ 人が行う形にすると、繁忙期の残業を抑えやすくなります

いずれのタイプも、AIが担うのは「情報を集めて形にする」部分までで、 金額や納期の最終判断は人が担います。

繁忙期に向けてAIを準備する手順

繁忙期に入ってから準備を始めると間に合いません。平常期のうちに 仕組みを作っておく必要があります。

  1. 過去の繁忙期の業務量を数字で振り返る。 「忙しかった」という 印象ではなく、受発注件数・見積件数・問い合わせ件数を月別に並べます
  2. 増加分がどの業務に集中しているかを特定する。 全業務が均等に 増えるわけではなく、特定の2〜3業務に集中していることが多くあります
  3. 判断業務を対象から外す。 特別価格や優先順位の決定のような 業務は、最初の対象には向きません
  4. 平常期のうちに、対象業務でAIを試しておく。 繁忙期に入ってから 初めて使う状態では、トラブルが起きたときに対応する余裕がありません
  5. 繁忙期に入る前に、削減できた時間の使い道を決めておく。 浮いた 時間を、他の繁忙期業務の応援に回すのか、社員の休養に回すのかを 事前に決めておきます

進め方を間違えたときに起きること

  • 繁忙期の最中に初めてAIを試す: 使い方に慣れないまま繁忙期を 迎えると、確認の手間が増えてかえって時間がかかることがあります
  • 判断業務から着手する: 特別価格や優先出荷の判断は情報整理の 時間は減らせても最終判断の時間は残るため、期待したほど余裕は 生まれません
  • 繁忙期だけの一時対応として扱う: 繁忙期が終わると使わなくなり、 翌年また同じ準備をやり直すことになります
  • 削減できた時間の使い道を決めずに進める: 時間は浮いても、 何に使うかが決まっていないと、結局は誰かの残業に吸収されて 終わります

よくある質問

Q. 繁忙期だけ人を増やすのと、AIで業務を圧縮するのと、どちらが コストは低いですか。 A. 一概には言えません。繁忙期の増加幅が小さい会社は、AIでの圧縮の 方が採用・教育コストがかからない分、割安になりやすい傾向があります。 繁忙期の増加幅が非常に大きい会社では、AIだけでは吸収しきれず、 一時的な増員と組み合わせる形になることが多くあります。

Q. 繁忙期の波が毎年同じ時期とは限らない業種でも使えますか。 A. 使えます。時期そのものが読めなくても、受発注・見積・請求・ 問い合わせのように「件数が増えるだけで手順が変わらない業務」を 先に特定しておけば、波が来た月にそのまま対応を始められます。

Q. 繁忙期用にAIを準備するのに、どのくらいの期間が必要ですか。 A. 業務によって異なりますが、対象業務を絞り込んでから実際に 使える状態にするまで、1〜2ヶ月程度の試行期間を見ておくと、 繁忙期に入ってから慌てずに済みます。

Q. 派遣・アルバイトを繁忙期だけ雇う方法と、AIを併用することは できますか。 A. できます。受発注の入力や問い合わせの一次対応をAIに任せて 件数の増加分を吸収し、判断が必要な業務や現場対応に派遣・アルバイトの 人手を回す、という組み合わせ方が考えられます。

Q. 従業員数が少ない会社でも、この考え方は当てはまりますか。 A. 当てはまります。人数が少ない会社ほど、繁忙期の負荷が特定の 社員に集中しやすいため、件数が増えるだけの業務をAIに任せる効果が 相対的に大きく出やすい傾向があります。

理解度チェック

読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。

Q1. 繁忙期だけ人手が足りない会社が正社員を増やして対応すると、閑散期には人員が過剰になりやすい。

— 繁忙期に合わせて人を増やすと、閑散期はその人員分の仕事量が足りなくなると本文で説明している。

Q2. 繁忙期に受発注や見積の件数が増えるとき、その増加分の処理は必ず正社員を増やして対応すべきである。

× — 件数が増えるだけで手順が変わらない業務はAIに任せやすく、増員以外の選択肢があると本文で述べている。

Q3. 繁忙期の値引き判断や特別対応の可否は、平常時の業務と同じようにAIに任せてよい。

× — 金額や取引条件に関わる判断は繁忙期でも人が担う業務として、本文で対象外に分けている。