人が採れない会社が、AIで埋められる仕事と埋められない仕事

人が採れないなら、空いた分をそのままAIに任せればいい、というわけではありません。 AIで埋められるのは「手順や判断基準が決まっている仕事」だけで、 「その場の状況を見て決める仕事」「信頼関係の上に成り立つ仕事」は今までどおり人が要ります。 この記事では、採用がうまくいかない会社で実際に穴が開きやすい業務を洗い出し、 どこまでAIで埋められて、どこから先は人を採る・育てる以外に手が無いのかを整理します。
「人が採れない」で困るのは、実は3種類ある
一口に「人が採れない」と言っても、起きていることは同じではありません。
- そもそも応募が来ない: 求人を出しても応募自体が集まらない状態です
- 採用できても定着しない: 入社しても数か月〜1年程度で辞めてしまう状態です
- 特定の仕事ができる人が採れない: 経験者採用の枠だけ埋まらない状態です
このうちAIが直接埋められるのは、実は「人」そのものではありません。 その人が担っていた仕事の一部です。応募が来ない・定着しないという問題自体は、 採用の条件や職場環境の見直しで対応する話であり、AIを入れても解決しません。 AIができるのは、辞めた人・採れない人の仕事のうち、手順が決まっている部分を代わりに引き受けることです。
AIで埋められる仕事と埋められない仕事の見分け方
仕事を「埋められる」「埋められない」に分ける基準は、難しいか簡単かではありません。 次の3つの問いで見分けられます。
- 手順や判断基準を、言葉で説明できるか: 「この条件ならA、この条件ならB」と 説明できる仕事は、AIに引き継ぎやすい仕事です
- 間違えたときの責任を、誰かが個人として負う必要があるか: 契約・支払い・ 人事評価など、最終的に人が責任を持つ必要がある判断は、AIに渡せません
- 相手との関係性そのものが仕事の価値になっているか: 取引先との信頼関係、 部下の相談に乗ることなど、関係性が仕事の中身である場合は埋められません
この3つに沿うと、同じ「経理」「営業」といった括りの中でも、 埋められる作業と埋められない作業が混ざっていることが分かります。 一つの職種を丸ごとAI化する・しないで考えるのではなく、 仕事を作業単位に分けて、それぞれに当てはめて考えたほうが実態に合います。
職種別に見る、埋められる仕事・埋められない仕事
一般的な中小企業の業務を例に、埋められる仕事と埋められない仕事を並べると次のようになります。
| 職種 | AIで埋めやすい仕事 | 埋められない仕事 |
|---|---|---|
| 経理 | 仕訳入力、請求書と発注書の突き合わせ、月次レポートの下書き | 資金繰りの判断、与信の判断、税務上の解釈 |
| 総務・庶務 | 備品発注、社内からの定型的な問い合わせへの一次回答 | 労務トラブルの対応、社員同士の人間関係の調整 |
| 営業 | 見積書の作成、提案書のたたき台、商談後の議事録作成 | 商談でのその場の駆け引き、値引きの最終判断 |
| 採用 | 応募書類の一次スクリーニング、面接日程の調整 | 最終面接での合否判断、内定者への口説き |
| 現場(店舗・工場等) | マニュアル化された定型作業の一部、在庫の発注点管理 | 想定外の事態への対応、常連客への臨機応変な接客 |
表の右側の仕事は、今のところ人を採る・育てる以外に埋める方法がありません。 逆に言えば、右側の仕事に集中してもらうために、左側の仕事をAIに任せる、という設計が現実的です。
AIで埋められる分は、月何時間の仕事か
表の左側にあたる仕事を、一般的な業務量から試算すると次のようになります。
| 業務 | いまの時間(月) | AI化後(月) | 差 |
|---|---|---|---|
| 経理の転記・照合作業 | 20時間 | 8時間 | 12時間 |
| 総務の定型問い合わせ対応 | 12時間 | 5時間 | 7時間 |
| 営業資料・見積書のたたき台作成 | 15時間 | 6時間 | 9時間 |
| 応募書類の一次スクリーニング | 6時間 | 2時間 | 4時間 |
| 議事録・報告書の下書き作成 | 8時間 | 2時間 | 6時間 |
| 合計 | 61時間 | 23時間 | 38時間 |
試算の前提は次のとおりです。
- 従業員30〜50名規模の会社を想定し、各業務を担当する社員1名分の月間作業量として試算
- 「AI化後」の時間には、AIが出した内容を人が確認・修正する時間を含む
- 表右側にある「埋められない仕事」の時間は、この試算に含めていない
- 業種・業務量によって時間は変わるため、自社の実際の作業時間で置き換えて使う目安の数字
月38時間という差は、社員約0.2〜0.25人分の稼働に相当します。 新しく1人採用するほどの穴は埋まりませんが、既存社員が右側の仕事に使える時間を作れる、 という位置づけで見たほうが実態に合います。
導入でつまずきやすい点
- 「AIに任せれば人はもう要らない」と考えてしまう: 前述のとおりAIが埋めるのは 仕事の一部です。埋められない仕事に人を割り当て直す前提を忘れると、 かえって現場の負担が増えます
- 手順が言葉になっていないままAIに渡す: 担当者の頭の中にしかない判断基準は、 AIに渡す前に一度文書にする作業が必要です。この整理を飛ばすと、 AIの出した結果を毎回大きく修正することになります
- 定着しない職場のまま、AIだけ入れる: 応募が来ない・定着しないという問題は AI導入では解決しません。AIで浮いた時間を、採用条件や職場環境の見直しに使わないと、 同じ問題が繰り返されます
- 確認する人がいなくなる: AIが作った下書きを、最終的に確認する人が いなくなると誤りに気づけません。埋めた仕事にも、確認の役割は残す必要があります
採用難でも回る体制の作り方
採れない前提で体制を組み直すときの考え方は、次の順番で進めると整理しやすくなります。
- 今いる社員の仕事を、作業単位で書き出す: 「経理担当」ではなく 「仕訳入力」「資金繰りの判断」のように分ける
- その1つずつに、この記事の3つの問いを当てはめる: 手順が言葉にできるか、 個人としての責任が要るか、関係性そのものが価値かを確認する
- 埋められる仕事から、AIに任せる範囲を決める: 一度に全部ではなく、 時間がかかっている作業から順に置き換える
- 浮いた時間を、埋められない仕事に配分し直す: 空いた時間を放置せず、 採用がうまくいっていない職種の仕事に充てる
この順番を飛ばして、いきなりツールを導入すると、 「導入したのに時間が減った実感がない」という状態になりやすくなります。 先に仕事を分けることが、AIを入れる作業そのものより重要です。
よくある質問
Q. 人手不足なら、AIで社員を完全に代替できますか。 A. できません。AIが埋められるのは、手順や判断基準が決まっている仕事の一部です。 最終的な責任判断や、相手との関係性が価値になっている仕事は、人が担う必要があります。
Q. AIに仕事を任せた分、採用の条件はどう変えればよいですか。 A. 定型作業ができる人を広く採る条件から、埋められない仕事(判断・調整・対応)を 任せられる人を採る条件に変える、という考え方になります。求人票の業務内容欄を 見直す価値があります。
Q. 社員が定着しない会社でも、AI導入の意味はありますか。 A. あります。ただしAI導入だけでは定着率の問題は解決しません。 浮いた時間を使って、定着しない原因(業務量・教育体制等)を見直す作業と セットで進める必要があります。
Q. AI化した業務を後任に引き継ぐとき、マニュアルは必要ですか。 A. 必要です。AIに渡した判断基準は、そのまま人への引き継ぎ資料としても使えます。 むしろAI導入をきっかけに、口頭伝承だった手順を文書化できる利点があります。
Q. 小さい会社でも、この考え方は意味がありますか。 A. 意味はあります。ただし社員数が少ないほど、1人が複数職種を兼務していることが多く、 表のように職種できれいに分けにくい場合があります。自社の場合は、 職種ではなく個々の作業単位で当てはめて考えたほうが実態に合います。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. AIに任せやすい仕事の共通点は、手順や判断基準が言葉で説明できることである。
○ — 手順や判断基準が明文化できる仕事ほど、AIに引き継ぎやすいと本文で述べている。
Q2. 採用面接の最終合否判断は、AIに任せれば担当者を減らせる仕事の例として本文で挙げられている。
× — 最終判断・信頼関係が要る仕事は埋められない仕事の例として挙げており、任せられる仕事には含めていない。
Q3. 経理の転記・照合作業は、AIで埋めやすい仕事の例として本文で挙げられている。
○ — 手順が決まった定型作業として、埋めやすい仕事の具体例に挙げている。


