電話の一次対応をAIに任せる|できる範囲と限界
電話の一次対応は、代表電話にかかってきた用件を聞き取り、振り分け、必要なら伝言を残す仕事です。一般的な業務量から試算すると、この作業に月34時間前後がかかっています(後述の試算)。このうち、決まった用件の聞き取りと振り分け、よくある質問への回答はAIに任せられます。一方で、クレームへの対応、緊急かどうかの判断、相手の話し方から事情を読み取ることは、引き続き人が行う必要があります。
なぜ電話の一次対応に時間がかかるのか
代表電話にかかってくる用件は、営業の売り込みから取引先の問い合わせ、求人応募、クレームまでさまざまです。受けた人は、まず相手が誰で何の用件かを聞き取り、担当者につなぐか、伝言で済ませるかを判断します。
この判断自体は単純に見えますが、実際には次のような負担があります。
- 担当者が不在の場合、伝言メモを作って共有する手間がかかる
- 同じ質問(営業時間、所在地、対応可能な業務内容等)に何度も答える
- 電話を取った人の手が止まり、他の作業が中断する
電話対応は「1件あたりの時間は短いが、件数が多く、いつかかってくるか分からない」という性質があります。この性質が、実際にかかっている時間を見えにくくしています。
電話の一次対応のどこにAIを使えるのか
一次対応の工程を分けると、AIに向く部分と人が担う部分がはっきりします。
| 工程 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 1. 用件の聞き取り | 相手の名前・会社名・要件を聞く | AI |
| 2. よくある質問への回答 | 営業時間・所在地・対応業務等の定型的な質問に答える | AI |
| 3. 担当部署への振り分け | 決めたルールに沿って取り次ぎ先を判断する | AI(人が確認) |
| 4. 伝言メモの作成 | 聞き取った内容を記録して共有する | AI(人が確認) |
| 5. クレームへの対応 | 相手の不満を受け止め、状況に応じて謝罪・調整する | 人 |
| 6. 緊急かどうかの判断 | すぐに担当者につなぐべきかを見極める | 人 |
| 7. 契約・金額に関わるやり取り | 条件交渉や個別の値引き判断 | 人 |
AIが力を発揮するのは、決まった手順で聞き取り、決まったルールで振り分けるところまでです。相手の感情や状況を踏まえて対応を変える必要がある場面は、人が引き取る必要があります。
用件の聞き取りと振り分け、AIにどこまで任せられるか
用件の聞き取りと振り分けは、次の条件が整っていればAIに任せやすい業務です。
- 取り次ぎ先の判断基準(どの用件をどの部署に回すか)を事前にルール化している
- よくある質問への回答内容(営業時間・所在地・対応業務等)を一覧にまとめている
- AIが聞き取れなかった、または振り分けに迷った場合は、人に回す設定にしている
音声の聞き取りは、電話回線の音質や相手の話し方によって誤って認識されることがあります。誤認識のまま振り分けてしまうと、担当者に用件が正しく伝わりません。振り分けに迷った場合や、聞き取りの確信が低い場合は、自動で判断させず人に取り次ぐ設定にしておく必要があります。
一般的な業務量から試算した削減時間
代表電話の一次対応にかかる時間を、1日あたりの入電件数から試算すると次のようになります。
| 業務 | いまの時間(1日あたり) | AI活用後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 用件の聞き取り・振り分け | 80分(40件×2分) | 20分(確認のみ) | 60分 |
| 伝言メモの作成・共有 | 30分(15件×2分) | 5分(自動作成を確認) | 25分 |
| よくある質問への回答 | 20分(10件×2分) | 3分(例外のみ対応) | 17分 |
| 合計 | 130分 | 28分 | 102分 |
試算の前提: 代表電話への入電を1日40件、うち伝言が必要な用件を15件、よくある質問に該当する入電を10件と仮定して計算しています。1日あたり102分の差を月20営業日で換算すると、月34時間前後が空く計算になります。実際の削減時間は、入電件数や取り次ぎルールの複雑さによって変わります。
AIでは判断できない電話:クレーム・緊急・交渉
一次対応の仕組みを整えても、次の電話は人が対応する必要があります。
- 商品・サービスへの不満や苦情を伝える電話(相手の感情を受け止める対応が必要)
- 事故・トラブル等、すぐに担当者へつなぐべきか判断が必要な電話
- 価格交渉や契約条件に関わる電話
- 相手の話し方や間の取り方から、言葉どおりではない事情を読み取る必要がある電話
これらは、決まった手順に沿って処理できるものではなく、その場の状況に応じた判断が必要です。AIに一次対応を任せる場合も、これらに該当しそうな電話を検知したら、迷わず人に回す設計にしておく必要があります。
導入時に注意すること
電話の一次対応にAIを使う場合、次の点を確認しておく必要があります。
- 通話を録音・記録する場合は、通話の冒頭で相手に伝える(伝えずに録音することはトラブルの原因になります)
- 誤って振り分けられた場合に、相手が人に取り次いでもらえる経路(「オペレーターにつなぐ」等)を用意する
- 通話内容から相手を特定できる場合、その録音は個人情報に該当し、利用目的の通知・公表義務が生じます(個人情報保護法第21条)。ただし、録音していること自体を相手に伝える法的義務はありません(個人情報保護委員会FAQ「Q1-10」、2022年4月更新)。トラブル防止の観点からは、上で述べたとおり冒頭で伝えておくことが望ましいです
- 電気通信事業法第4条の「通信の秘密」は、電話会社等の電気通信事業者が取り扱う通信を対象とする規定です。総務省のFAQによれば、通信当事者自身が管理する電話機・録音機での記録は、原則としてこの規定の対象にはなりません。自社の電話回線で録音・自動応答を導入する一般的な中小企業の場合、この規定が直接の障害になることは通常ありません。電話代行会社に委託する場合は、その会社側の扱いを個別に確認してください
電話代行・自動応答サービスの料金体系や機能は提供会社ごとに異なり、変わりやすいため、契約前に公式ページで最新の内容を確認してください(2026年9月時点)。
導入の進め方
電話の一次対応の自動化は、いきなり全ての着信に適用せず、次の順番で進めると失敗が少なくなります。
- よくある質問への回答内容と、取り次ぎ先の振り分けルールを一覧にまとめる
- 営業時間外や、担当者が全員不在の時間帯だけAIに一次対応させて様子を見る
- 誤って振り分けられた件数、聞き取れなかった件数を記録し、ルールを見直す
- 問題が少なければ、営業時間内の一次対応にも範囲を広げる
よくある質問
Q. 電話対応の担当者が1人しかいない小さい会社でも、AIによる一次対応に意味はありますか。 A. 担当者が1人の場合こそ、他の作業中にかかってきた電話の一次対応をAIに任せることで、作業の中断を減らせます。
Q. AIが用件を聞き取れなかった場合はどうなりますか。 A. 聞き取れなかった、または振り分けに迷った場合は、自動で判断させず人に取り次ぐ設定にしておく必要があります。
Q. クレームの電話がかかってきたことを、AIはどう見分けるのですか。 A. 特定の言葉や話し方の特徴から可能性を検知することはできますが、それを最終的にクレームと判断し対応するのは人の役割です。
Q. 電話を録音してAIに処理させる場合、相手の同意はどう得ればよいですか。 A. 通話の冒頭で「対応品質向上のため録音しています」等、録音していることを伝える必要があります。
Q. 夜間や休日の電話にAIで一次対応する場合、緊急の連絡はどう扱えばよいですか。 A. 緊急性が高いと判断される用件(取引先のトラブル等)は、担当者の携帯電話に転送する等、人につながる経路を別に用意しておく必要があります。
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. 「担当部署への取り次ぎ」か「伝言で済ませる」かを、あらかじめ決めたルールに沿ってAIが振り分けることはできる。
○ — 用件の種類ごとに振り分け先を決めておけば、その通りに仕分ける作業はAIに任せやすいと本文で述べている。
Q2. クレームの電話がかかってきた場合、内容の聞き取りから謝罪の言葉まで、すべてAIに任せてよい。
× — クレームは相手の感情や状況を踏まえた対応が必要で、人が引き取る必要があると本文で述べている。
Q3. 電話のやり取りを録音してAIの学習や記録に使う場合、相手に伝えなくてもよい。
× — 録音する場合は、通話の冒頭で相手に伝える必要があると本文で述べている。
