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AIで営業リストを作る|やってよい範囲と法律

結論

営業リスト作成でAIに任せられるのは、集めた情報の「整理」「重複排除」「セグメント分け」です。 企業名・業種・規模をそろえたフォーマットに落とし込む作業、 表記ゆれを直して重複を消す作業は数分で終わります。 一方で「その情報をどこから集めてよいか」「集めた連絡先に営業をかけてよいか」は、 個人情報保護法や特定電子メール法に関わる判断で、AIには任せられません。 この境界を誤ると、リストの精度ではなく法律の違反リスクが問題になります。

営業リスト作成、AIに任せられるのはどこまでか

作業を工程ごとに分けると、AIが得意な部分と人が判断すべき部分がはっきりします。

工程 内容 担当
1. 情報源の選定 どこから企業・連絡先情報を集めるかを決める
2. 収集元の適法性確認 その情報源から集めてよいか(規約・法律)を確認する
3. 情報の整理・構造化 手元の名刺・資料・Webページの情報を決まった項目に整理する AI
4. 重複排除・名寄せ 同じ企業・同じ担当者の重複を見つけて統合する AI
5. セグメント分け 業種・規模・地域などで分類する AI
6. 営業手段の適法性確認 メール・電話・DMのどれで接触してよいかを確認する
7. 優先度付け・アプローチ設計 どの企業から当たるか、どう声をかけるかを決める

AIが力を発揮するのは「すでに手元にある情報を整える」段階です。 「その情報を集めてよいか」「その情報を使って連絡してよいか」という 2つの適法性の判断は、情報源ごと・用途ごとに事情が異なるため、 人が確認する必要があります。

使ってよい情報源、確認が必要な情報源

営業リストの情報源には、性質が大きく異なるものが混ざります。

情報源 AIでの整理 適法性の確認ポイント
自社の名刺・展示会での交換 任せられる 名刺交換時の利用目的の範囲内か
自社サイトの問い合わせ・資料請求 任せられる 取得時に示した利用目的の範囲内か
企業の公式サイトに掲載された代表連絡先 任せられる サイトの利用規約でスクレイピングが禁止されていないか
有料の企業データベース・名簿サービス 任せられる サービスの利用規約で営業利用・第三者提供が許可されているか
個人のSNSプロフィール情報 要確認 本人が公開した目的の範囲を超えた利用にならないか
第三者から購入・譲渡された名簿 要確認 名簿業者が適法に取得・提供しているか。名簿業者からの提供の多くは本人同意を得ないオプトアウト手続によるもので、この場合は提供を受ける側にも、相手の氏名・住所や取得の経緯を確認し記録する義務がある(個人情報保護法第30条、個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)」)

AIに任せられるのは、集めた情報を整理する作業までです。 「この情報源から集めてよいか」を判定する機能はありません。 情報源が変わるたびに、規約や法律の条件も変わるため、 新しい情報源を使い始める際は毎回人の確認が必要になります。

個人情報保護法との関係

営業リストに含まれる担当者名・メールアドレス・電話番号は、 個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。 中小企業も個人情報保護法の対象であり、事業規模による適用除外はありません。 2017年の法改正で、保有する個人情報が5,000件以下の事業者を対象外とする 規定が撤廃され、1件でも個人情報を取り扱う事業者はすべて対象になりました。 個人情報保護委員会のFAQでも、適用除外となるのは報道機関・著述業者・宗教団体・ 政治団体がそれぞれの活動のために個人情報を取り扱う場合に限られると説明されており、 従業員数や取扱件数を理由にした適用除外の規定はありません (個人情報保護法第57条第1項、個人情報保護委員会 「個人情報保護法の適用除外とはどのような制度ですか」)。

営業リストの作成・活用で特に関係するのが次の2点です。

  • 利用目的の範囲:取得時の利用目的と関連性が認められる範囲であれば、 変更後の利用目的を本人に通知または公表することで対応できます (個人情報保護法第17条第2項、第21条第3項)。関連性が認められないほど 異なる用途(例:想定していなかった別事業の営業)に使う場合は、 通知・公表では足りず、あらかじめ本人の同意を得る必要があります (同法第18条第1項)
  • 第三者提供:他社から名簿を購入・譲渡された場合、提供元がその情報を 適法に取得し、第三者提供について本人の同意を得ているかを確認する必要があります

これらの判断は、情報がどう取得されたか、これから何に使うかという 個別の事情に左右されるため、AIが自動で適法・違法を判定することはできません。 リストを作る前に、情報の入手経路を記録しておくと、 あとから確認が必要になった際に対応しやすくなります。

迷惑メール規制(特定電子メール法)との関係

営業リストをメール営業に使う場合、特定電子メール法の規制が関わります。 この法律は、事前に同意していない相手への広告・宣伝メールの送信を 原則として禁止する仕組み(オプトイン規制)を採っています。 送信が認められるのは、①あらかじめ送信への同意を通知した相手、 ②総務省令で定める方法で自分の電子メールアドレスを通知した相手、 ③その広告・宣伝に係る営業と取引関係にある相手、 ④総務省令で定める方法で自分の電子メールアドレスを公表している 団体・個人(個人の場合は営業を営む者に限る)のいずれかに 該当する場合です(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律 〈特定電子メール法〉第3条第1項第1号〜第4号)。 名刺交換で得た連絡先がこのどれに当たるかは、交換した状況によって 変わるため、個別に確認が必要です。

営業リストの担当者に一斉メールを送る運用を検討している場合は、 次の点を人が確認する必要があります。

  • リストの連絡先が、メール送信への同意を得た相手か、 例外規定に該当する相手か
  • 送信するメールに、法律で定められた表示事項(送信者情報・配信停止の方法など) を含めているか

AIに任せられるのは、リストの中から「メール送信の同意有無」の項目が 埋まっているかどうかをチェックし、未確認の連絡先を一覧化する作業までです。 同意の有無そのものを推測させることはできません。

AIでリスト作成、何時間減るのか

情報の整理・重複排除・セグメント分けの部分に絞ると、 一般的な業務量から試算した場合の時間短縮は次のとおりです。

作業 いまの時間 AI活用後
名刺・資料300件の情報を項目別に入力 300分 60分 240分
重複・表記ゆれのチェック 60分 10分 50分
業種・規模別のセグメント分け 45分 10分 35分
情報源・適法性の確認(人が実施) - 60分 (新たに発生)

試算の前提:名刺・問い合わせ履歴など既存の情報300件を、 企業名・業種・規模・担当者名・連絡先の5項目に整理する想定です。 「いまの時間」は、担当者が1件ずつ手入力・目視確認している場合の目安 (入力1分・確認20秒程度)です。適法性の確認にかかる時間は、 情報源が複数(名刺・問い合わせ・購入名簿など)にまたがる場合の目安で、 情報源が1種類に絞られていればさらに短くなります。

差し引きで、整理・重複排除・セグメント分けの作業時間はおよそ405分から 80分に短縮される計算です。ただし適法性の確認は新たに発生する工程であり、 省略すると時間短縮の効果と引き換えに法律上のリスクを抱えることになります。

名刺交換・展示会で得た情報の扱い

名刺交換や展示会で得た連絡先は、営業リストの主な情報源の一つです。 この場合、次の点を確認しておくと後のトラブルを避けやすくなります。

  • 名刺交換時に、どのような用途で連絡する可能性があるかを口頭やパンフレットで 伝えていたか(伝えていた範囲内の連絡であれば問題になりにくい)
  • 交換した名刺の情報を、交換した本人以外の担当者・部署にも共有してよいか (社内での利用目的の範囲を事前に決めておく)
  • 展示会の主催者から提供された来場者リストを使う場合、 主催者と来場者の間でどのような同意が取られているかを主催者に確認する

これらはAIが名刺画像を読み取って情報を構造化する作業とは別の工程です。 名刺のテキスト化・項目分けはAIに任せられますが、 「この連絡先に営業をかけてよいか」の最終判断は人が行います。

営業リスト作成でよくある失敗

  • 情報源を確認せずにAIで大量整理してしまう:整理した後になって、 収集元の規約違反や個人情報保護法上の問題に気づくケースがあります
  • 第三者提供の名簿をそのまま使う:提供元の適法性を確認しないまま 営業をかけ、情報の入手経路を問われた際に説明できなくなります
  • メール配信の同意有無を記録していない:リストを整理した時点で 同意の有無が分からなくなり、全件に同意確認の連絡が必要になります
  • AIに適法性の判断まで期待してしまう:AIは情報の整理はできますが、 収集・利用が適法かどうかの判断材料は持っていません

これらはいずれも、情報の整理と適法性の確認を同じ工程だと 思い込んだときに起きています。

営業リスト作成AIを始める順番

いきなり全社の顧客・見込み客情報に適用するのではなく、 次の順番で試すと失敗しにくくなります。

  1. 情報源を1つに絞って試す(自社の名刺や問い合わせ履歴など、 利用目的が明確なものから始める)
  2. 整理する項目を決める(企業名・業種・規模・担当者名・連絡先・ 同意有無など、リストに必要な列を先に決める)
  3. AIに整理・重複排除をさせる(項目に沿って情報を構造化させる)
  4. 適法性の確認ルールを固める(どの情報源はどの担当者が確認するかを決める)
  5. 情報源を広げる(確認ルールが固まってから、他の情報源を追加する)

情報源ごとの確認ルールが固まらないまま対象を広げると、 どの連絡先がどの経路で入手されたか分からなくなり、 あとから適法性を説明できなくなる点に注意が必要です。

よくある質問

Q. Webサイトから企業の連絡先を自動収集してもよいですか。 サイトの利用規約でスクレイピングや情報の営業利用を禁止していないかを 確認する必要があります。不正アクセス禁止法は、ID・パスワードなどの アクセス制御機能を回避してログイン領域に入る行為を対象にしており、 認証のかかっていない公開ページの取得は基本的に対象外です (不正アクセス行為の禁止等に関する法律第2条・第3条)。 一方、著作権法には情報解析や検索結果表示に伴う軽微な利用を認める 権利制限規定(第30条の4、第47条の5)がありますが、取得した情報を 大量に再配布するような使い方は権利者の利益を不当に害するとして 別の判断になる場合があります。規約や法律の条件はサイトごとに 異なるため、個別の確認が必要です。

Q. 購入した名簿をAIで整理してすぐ営業に使ってよいですか。 名簿業者がその情報を適法に取得し、第三者提供について 本人の同意を得ているかを確認してから使う必要があります。 AIによる整理は、この確認が済んだ後の工程です。

Q. 名刺交換した相手にメールで営業をかけてもよいですか。 特定電子メール法(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律) 第3条第1項は、あらかじめ同意を得た相手のほか、 自分の電子メールアドレスを通知した相手や取引関係にある相手、 自分のアドレスを公表している事業者など、4つの要件のいずれかに 該当する相手への送信を認めています。 名刺交換で得た連絡先がどの要件に当たるかは状況によって異なるため、 個別に確認したほうが安全です。

Q. 営業リストの重複排除にはどんなツールを使えばよいですか。 表計算ソフトの重複チェック機能や、AIチャットツールに CSVを読み込ませて重複・表記ゆれを指摘させる方法があります。 具体的なツールの料金・機能は変化が早いため 、導入時に各社の公式ページで確認してください。

Q. 個人情報保護法の相談はどこにすればよいですか。 自社の具体的な取り扱い方法が法律に適合するかは、 個別の事情によって判断が変わります。不明な点は 弁護士や個人情報保護委員会の窓口に確認することをおすすめします。