社内問い合わせ(総務・人事)をAIチャットで受ける作り方

総務・人事への社内問い合わせは、そのほとんどが「同じ質問の繰り返し」です。 有休の残日数、経費精算の書式、育休の申請方法。答えは社内規程やマニュアルに すでに書いてあるのに、探すのが面倒だから担当者に聞きに来ます。 この「規程を読んで答える」作業だけをAIチャットに渡すと、担当者への一次問い合わせは 大きく減らせます。ただし人事評価や懲戒に関わる相談、規程に書いていない例外判断は AIに任せられません。この記事では、任せられる範囲の見分け方と、実際にAIチャットを 作る手順を順番に説明します。
総務・人事の問い合わせの何がAIに任せられるのか
社内問い合わせは、大きく2種類に分かれます。
- 規程・マニュアルを読めば答えが決まる質問:有休の残日数の確認方法、 経費精算の書式、慶弔休暇の日数、通勤手当の申請方法など
- 状況によって答えが変わる相談:異動の希望、上司との関係の相談、 懲戒に関わる話、給与そのものの個別交渉など
AIチャットに任せられるのは前者だけです。社内規程・就業規則・各種マニュアルを 読み込ませておき、質問が来たらその中から該当箇所を探して答える、という 仕組みにします。規程に書いていないことをAIが推測で答えると、間違った案内が そのまま社内に広まる危険があるため、「規程に無いことは答えない」設定が前提になります。
後者は、人が話を聞く前提を崩さないほうが安全です。AIチャットの入口で 「個人の状況に関わる相談は、担当者に直接連絡してください」という案内を 出すようにします。
時間はどれくらい減るのか
一般的な中小企業の総務・人事担当の業務量から試算すると、次のようになります。
| 業務 | いまの時間(月・1人あたり) | AI活用後の時間(目安) | 差 |
|---|---|---|---|
| 定型的な社内問い合わせへの一次回答(有休・経費・各種申請の書式案内など) | 10時間 | 3時間 | 7時間 |
| 同じ質問の繰り返し対応(新入社員向けの案内など) | 4時間 | 1時間 | 3時間 |
| 問い合わせ内容の記録・集計 | 2時間 | 1時間 | 1時間 |
前提:従業員50名前後の会社で、総務・人事を1〜2名で兼務している場合の目安です。 社内規程の整備状況やAIチャットの回答精度によって、削減時間は変わります。 評価・懲戒・個別の給与交渉など、判断そのものが必要な相談はこの試算に含めていません。 規程の整備が不十分な会社では、AIチャットを作る前に規程の見直し作業が先に発生し、 その分の時間はこの表に含まれていません。
作り方の手順
社内問い合わせ用のAIチャットは、次の順番で作ります。
1. 問い合わせの棚卸しをする
過去3〜6か月分の問い合わせ記録(メール・Chatwork・口頭の記録があれば)を集めて、 「何を」「何回」聞かれたかを数えます。記録が残っていない場合は、 総務・人事担当に1〜2週間、簡単なメモを取ってもらうところから始めます。 ここで多かった質問トップ10〜20が、最初にAIに答えさせる範囲になります。
2. 答えの元になる文書をそろえる
就業規則、経費精算規程、各種申請書式、よくある質問集など、 答えの根拠になる文書を1か所に集めます。この文書が古い・矛盾している場合は、 AIチャットを作る前に文書自体を整理する必要があります。 AIは元の文書が正しいことを前提に答えを組み立てるため、 元の文書が間違っていれば、AIも同じ間違いをそのまま案内します。
3. AIに文書を読み込ませて、答えられる範囲を決める
集めた文書をAIツールに読み込ませ、「この文書に書いてあることだけ答える」 「書いていないことは担当者に確認するよう案内する」という指示を設定します。 この読み込ませる仕組みは「社内規程を検索対象にして、質問に関係する部分だけを 探して答えに使う仕組み」と考えると分かりやすいです。
4. 社内の一部で試す
いきなり全社に公開せず、総務・人事チーム内、または一部の部署だけで 1〜2週間試します。この期間に、間違った回答や答えられなかった質問を記録し、 元の文書やAIへの指示を修正します。
5. 全社に公開し、答えられなかった質問を定期的に見直す
社内チャットツール(Slack・Chatwork・Teamsなど)にAIチャットを組み込むか、 専用の質問フォームを用意します。公開後も、AIが答えられなかった質問・ 間違えた質問は定期的に確認し、元の文書やAIへの指示を更新し続けます。 作って終わりではなく、月1回程度の見直しが前提になります。
使うツールの選び方
社内問い合わせ用のAIチャットを作る方法は、大きく3つあります。
| 方法 | 向いている会社 | 注意点 |
|---|---|---|
| 既存の生成AIツール(ChatGPT・Geminiなど)に社内文書を都度読み込ませる | まずは無料〜低コストで試したい会社 | 文書を毎回貼り付ける手間が残る。社外にデータを送る形になるため、機密文書の扱いは要確認 |
| 社内文書を常時読み込ませておける専用サービス | 問い合わせ件数が多く、継続利用する会社 | 【一次情報なし:月額料金の全業者共通の公式データは中小企業庁など公的機関からは公表されておらず、サービスごとに幅があります】。契約前に複数社から見積もりを取り、自社の従業員数・問い合わせ件数に対して料金が見合うか確認する |
| 自社のチャットツールに組み込んで開発する | 社内システムとの連携まで求める会社 | 開発費用と保守の担当者が必要。小規模な会社にはコストが見合わないことが多い |
個人情報・給与情報・懲戒記録などの機密文書は、読み込ませる文書から 最初は外しておくことをおすすめします。 情報の取り扱いに問題が無いと 確認できてから、対象を広げる順番のほうが安全です。
補助金の対象になるかどうかは、ツールによって異なります。「デジタル化・AI導入補助金2026」 (旧IT導入補助金。中小企業庁、2026年3月10日に公募要領公開)の対象ツールに該当するかは、 契約前にIT導入支援事業者に個別確認してください(出典:中小企業庁 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260310001.html)。
AIに任せてはいけない問い合わせ
次の内容は、AIチャットの回答対象から外します。
- 人事評価・昇給・降格に関する個別の相談
- ハラスメント・懲戒に関わる相談(人が直接対応する)
- 給与・賞与額そのものの個別交渉
- 規程に明記されていない例外的な扱いの判断
- 退職・休職など、本人の状況を踏まえた個別対応が必要な相談
これらの質問がAIチャットに来た場合は、規程を検索させて答えを作らせるのではなく、 「担当者に直接連絡してください」という定型案内だけを返す設定にします。 中途半端に答えようとすると、規程の解釈を誤ってAIが独自の判断を示してしまう 危険があります。
つまずきやすいポイント
- 規程が古いまま読み込ませてしまう:改定前の就業規則を読み込ませたままだと、 古いルールをAIがそのまま案内し続けます。規程を改定したら、AIに読み込ませる 文書も同時に更新する運用を決めておく必要があります
- 「分からない」と言えない設定にしてしまう:AIに「必ず何か答える」設定を すると、根拠が無い質問にもそれらしい答えを作ってしまうことがあります。 「規程に無い場合は担当者に確認するよう案内する」設定を入れておきます
- 試験運用を飛ばして全社公開してしまう:一部の部署で試さずに公開すると、 間違った回答が広まってから気づくことになります。小さく試してから広げる 順番を守ります
- 個人情報の扱いを確認せずにツールを選んでしまう:社外のAIサービスに 社員の個人情報を含む文書を読み込ませる場合、そのサービスの利用規約で データがどう扱われるかを契約前に確認する必要があります
FAQ
Q. 総務・人事の担当者が1人しかいない会社でも作れますか。 A. 作れます。むしろ1人しかいない会社ほど、同じ質問への対応に時間を取られやすいため、 効果が出やすい傾向があります。ただし文書を整理する初期作業の時間は必要です。
Q. 社内規程が整っていない場合、AIチャットは作れませんか。 A. AIチャットは元の文書を根拠に答えるため、規程自体が無い・古いままの場合は 先に規程を整理する作業が必要になります。規程の整理と並行してAIチャットの 準備を進める会社もあります。
Q. AIが間違った回答をしたらどうなりますか。 A. 「規程に書いてあることだけ答える」設定にしていても、文書の解釈を誤る 可能性は残ります。試験運用の期間に間違いを見つけて修正すること、 公開後も定期的に回答内容を確認することが前提になります。
Q. 個人情報を含む質問(有休の残日数など)にも対応できますか。 A. 本人確認の仕組みと、社員データベースとの連携が必要になるため、 規程の案内よりも難易度が上がります。まずは規程・マニュアルの案内から始め、 個人データの連携は次の段階として検討することをおすすめします。
Q. 導入にどれくらいの期間がかかりますか。 A. 文書の整理状況によって変わります。規程が整理済みであれば、 読み込ませる作業自体は短期間で済みますが、試験運用と見直しの期間を含めると、 【一次情報なし:導入にかかる標準的な期間を示す公的統計・業界統一データは見つかりませんでした】。 本記事の手順(棚卸し→文書整理→試験運用→公開)に沿って進める場合、目安として 1〜2か月程度を見ておくと計画が立てやすくなります。会社の規模や 文書量によって前後します。
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