社内データを生成AIに入れて大丈夫か|情報漏えいの線引き

生成AIに入れてよいかどうかは、情報の中身で決まります。社内の一般的な 文章(社内規程、業務手順、公開済みの資料)は基本的に問題ありません。 個人情報、取引先の非公開情報、契約書の金額条項は、契約プラン次第で 危険度が変わります。境界線は「その情報が漏れたら、誰が困るか」で引けます。 この記事では、入れていい情報とダメな情報の分類、無料版と法人向けプランの 違い、社内でルールを作る手順を整理します。
何を基準に線引きするのか
「社内データ」とひとくくりにすると判断を誤ります。中身を4つに分けて 考えると、線引きがしやすくなります。
| 情報の種類 | 具体例 | 入力の可否 |
|---|---|---|
| すでに公開されている情報 | 自社のホームページ、公開済みプレスリリース | 問題なし |
| 社内限定だが個人・取引先を特定しない情報 | 業務手順、社内規程のたたき台、一般的な集計値 | 多くの場合は問題なし |
| 個人・取引先が特定できる情報 | 顧客名簿、担当者の連絡先、契約金額、人事評価 | 契約プラン次第(後述) |
| 法令・契約で第三者提供が制限されている情報 | マイナンバー、医療情報、守秘義務契約のある取引先情報 | 原則入力しない |
上から下に行くほど、漏れたときの被害が自社の外に及びます。3段目と 4段目の境目、つまり「取引先の名前を出してよいか」「個人名を出して よいか」で迷う会社が最も多く、ここは契約しているAIツールの仕様 そのものに判断が左右されます。
無料版と法人向けプランでは扱いが違う
生成AIツールの多くは、入力した内容を「AIの学習に使うかどうか」を 契約プランで切り替えられる仕組みを持っています。
| 個人向け無料プラン | 法人向け(ビジネス)プラン | |
|---|---|---|
| 入力内容がAIの学習に使われるか | 使われる設定が既定になっていることが多い | 既定で学習に使われないことが多い |
| 管理者によるアクセス権限の設定 | できないことが多い | できることが多い |
| ログの保存・監査 | 個人アカウント任せ | 会社側で確認できることが多い |
この表の「多い」という表現の根拠: ChatGPT・Claude・Geminiの3つについて、 運営元の公式ヘルプページを2026年8月時点で確認しました。個人向け無料・有料 プラン(ChatGPT無料版/Plus/Pro、Claude Free/Pro/Max、Gemini無料版)は、 いずれも入力内容がAIの学習に使われる設定が既定になっており、設定画面から オフにできます。法人向けプラン(ChatGPT Business/Enterprise/Edu・Claude for Work・Google Workspace上のGemini)は、いずれも既定で学習に使われません (出典: OpenAIヘルプセンター、 Anthropic Privacy Center、 Google Gemini Appsヘルプ、 Google Workspaceヘルプ)。 上記3社以外の生成AIツールは今回確認できていないため、契約前に自社が 使うツールの公式ヘルプページで確認してください。各社の仕様は2026年に 入ってからも変更が続いています。Anthropicは2025年8月28日に個人向け プラン(Free/Pro/Max)の規約改定を発表し、既存ユーザーは2025年10月8日 までに学習利用の可否を選択する必要がありました(選択しないとClaudeを 継続利用できない仕組み)。この改定で学習に使うかどうかの設定は既定で オンに切り替わり、それ以前は既定で学習に使われませんでした (出典: Anthropic公式発表)。
どの漏えい経路が最も多いかを示す公的機関の統計は見つかりませんでした (IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」では「AIの 利用をめぐるサイバーリスク」が組織向け脅威の3位として新たに選出されて いますが、経路別の発生件数までは公表されていません。出典: IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」)。 一方で、社員が会社の把握していない 個人アカウントで契約情報や顧客名を入力してしまうことは、複数のセキュ リティ関連の解説記事が共通して指摘する典型的な漏えい経路です。法人 向けプランへの切り替えそのものより、「誰がどのアカウントで使って いるか」を会社が把握しているかどうかが、最初に確認すべき点になります。
情報漏えいが起きる典型パターン
技術的な欠陥より、運用の抜けが原因になるケースが目立ちます。
- 個人アカウントでの業務利用: 会社が契約したプランではなく、 社員が個人的に契約した無料版に顧客情報を入力してしまう
- 下書きのコピー&ペースト: 顧客への提案書を作る際、元になった 契約書や見積書をそのまま貼り付けてしまう
- チェックなしの一括投入: 大量の顧客データを整理させようとして、 個人情報を含むファイルをそのまま読み込ませてしまう
- 社外秘資料の要約依頼: 未公開の決算数値や人事情報を「要約して」 と入力してしまう
いずれも、悪意ではなく「便利だから」という理由で起きます。だからこそ、 禁止するだけでなく「代わりにどうすればよいか」を示すルールが必要に なります。
安全に使うための社内ルールの作り方
ルールは複雑にするほど守られなくなります。最低限、次の3点を 文書化し、社員全員に共有する形が実務的です。
- 使ってよいアカウントを1つに決める: 会社が契約した法人向け プランのみを業務利用可とし、個人の無料アカウントでの業務利用を 禁止する
- 入力前に個人・取引先が特定できる情報を伏字にする: 名前を 「A社」「担当者B」のように置き換えてから入力する運用を徹底する
- AIの出力を顧客に送る前に人が確認する: 情報漏えいだけでなく、 誤った内容をそのまま送ってしまうミスも同時に防げます
ルール運用にかかる時間と、削減できる時間
線引きルールを作ると「確認の手間が増えて逆に時間がかかるのでは」と 心配されますが、一般的な業務量から試算すると、確認の手間を含めても 削減効果の方が大きくなります。
| 業務 | いまの時間(月・1人あたり) | AI化後の時間(ルール運用込み) | 差 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせ対応の下書き作成 | 5時間 | 2時間 | 3時間 |
| 社内文書の匿名化・伏字化作業 | 4時間 | 2.5時間 | 1.5時間 |
| 利用ルールの周知・問い合わせ対応 | 3時間 | 1.5時間 | 1.5時間 |
| 社内向け資料のたたき台作成 | 6時間 | 2時間 | 4時間 |
| 合計 | 18時間 | 8時間 | 約10時間 |
試算の前提: 「入力前に個人・取引先名を伏字にする」「AIの出力を人が 確認してから使う」という2つの手順を、すべての業務に組み込んだ場合の 目安です。顧客の個人情報そのものを扱う業務(与信判断、契約審査等)は 含めていません。担当者の人数や業務量によって変わる数字なので、自社の 時給・時間で置き換えて計算し直してください。
費用・制度面で確認しておくこと
個人情報保護法との関係や、補助金の対象になるかどうかは、この記事だけで 断定できません。
個人情報保護委員会は2023年6月2日付で「生成AIサービスの利用に関する注意 喚起等について」を公表し、個人情報取扱事業者に対し生成AIへの個人情報の 入力について注意を促しています(出典: 個人情報保護委員会)。
上記の注意喚起で関係するとされているのは、主に3つの条文です。取得済みの 個人情報を生成AIへのプロンプトとして入力する場合は「利用目的による制限」 (個人情報保護法17条・18条)、生成AIサービス提供事業者への提供が「提供」に あたる場合は「第三者提供の制限」(同法27条)・「外国にある第三者への提供の 制限」(同法28条)、外部の事業者に処理を任せる場合は「委託」(同法27条5項 1号)が関係します(出典: 牛島総合法律事務所の解説。 個人情報保護委員会の公表資料そのものは条文番号を明記した形では公開されて いないため、法律専門家による解説を出典としています)。自社のケースがどの 条文に該当するかは、専門家(弁護士等)への確認をすすめます。
生成AIの法人向けプラン導入が、2026年度の「デジタル化・AI導入補助金」 (旧IT導入補助金、中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営)の 対象になるかどうかは、ツールごとに異なります。公式サイトの通常枠ページ では、対象は「業務プロセス対応ツール」として登録されたソフトウェアに 限られ、汎用ツールのみは対象外とされています(出典: デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠)。 利用予定の生成AIツールがこの登録済みソフトウェアに含まれているかは、 公式サイトのツール一覧で個別に確認してください。
社内データと生成AIについてよくある質問
Q. 生成AIに個人情報を入力しても大丈夫ですか。 情報の種類と契約プランによります。氏名・連絡先など個人が特定できる 情報は、法人向けプランでアクセス権限と学習設定を確認したうえで、 必要最小限のみ入力する運用が基本です。マイナンバーや医療情報など、 法令で扱いが制限されている情報は原則入力しません。
Q. ChatGPTなどに社内データを入れると、AIの学習に使われますか。 契約プランによって異なります。ChatGPTの場合、無料版・Plus・Proプランは 学習に使われる設定が既定になっており、設定画面(データコントロール) からオフにできます。ChatGPT Business・Enterprise・Eduは既定で学習に 使われません。Claude(Free/Pro/Max)・Geminiの無料版も、個人向けプランは 既定で学習対象、法人向けプラン(Claude for Work・Google Workspace上の Gemini)は既定で対象外という同じ傾向です(出典: OpenAIヘルプセンター、 Anthropic Privacy Center、Google Gemini Appsヘルプ、Google Workspace ヘルプ。いずれも2026年8月時点)。なお、Claudeの個人向けプランは2025年 8月28日に規約改定が発表され、既存ユーザーは同年10月8日までに学習 利用の可否を選択する必要がありました。この改定で既定が「学習に 使われない」から「学習に使われる」へ切り替わった経緯があります (出典: Anthropic公式発表)。 契約中のツール・プランの仕様は変更されることがあるため、公式 ヘルプページで都度確認してください。
Q. 法人向けプランに切り替えれば、何を入力しても安全ですか。 そうとは言えません。法人向けプランは学習への利用やアクセス管理の 面でリスクを下げますが、マイナンバーや守秘義務契約のある取引先情報 など、そもそも第三者に渡してはいけない情報は、プランに関わらず 入力を避けるべき対象です。
Q. 情報漏えいが起きてしまった場合、どう対応すればよいですか。 まず利用を止め、どの情報を、どのツールに、いつ入力したかを記録します。 個人情報保護法では、要配慮個人情報を含む漏えい、財産的被害のおそれが ある漏えい、不正目的による漏えい、1,000人を超える漏えいのいずれかに 該当する場合、個人情報保護委員会への報告(概ね3〜5日以内)と本人への 通知が義務付けられています(個人情報保護法第26条、2022年4月1日施行。 出典: 個人情報保護委員会)。 自社のケースがこの義務の対象になるかどうかは、専門家(弁護士等)に 確認する手順を先に決めておくことをすすめます。
Q. どこまでが「入れていい情報」か、判断に迷ったときはどうすればよいですか。 「この情報が漏れたら、誰が困るか」を先に考え、答えが「自社以外の 誰か(顧客・取引先)」になる情報は、伏字にするか入力しない方向で 判断する基準をすすめます。判断に迷う業務が多い場合は、業務ごとに 線引き表を作り、担当者が毎回同じ基準で判断できるようにしておくと 運用が安定します。
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