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来期の事業計画づくりにAIを使う|たたき台の作らせ方

結論

来期の事業計画づくりでAIに任せられるのは「前年実績の整理」「競合・市場情報の下調べ」「章立てに沿った初稿作成」の3つです。 判断が要る「来期の目標数値の決定」「投資の優先順位」「人員配置」は経営者が決めます。 一般的な中小企業の事業計画づくりの業務量から試算すると、たたき台までの作業で担当者1人あたり2〜3日分の時間が浮く計算になります(後述の試算)。 できあがるのは「話し合うための材料」であって、そのまま提出できる完成品ではありません。

来期の事業計画づくりで、AIに任せられるのはどこまでか

事業計画づくりは、大きく3つの作業に分けられます。

  • 素材集め:前年の実績データ、部門ごとの数字、過去の計画書の整理
  • 下調べ:自社が属する業界の動き、競合の公開情報の要点整理
  • 文章化:集めた素材を、決まった章立て(市場環境・自社の強み弱み・来期方針・数値目標・アクションプラン)に流し込んで初稿にする

このうち、AIが力を発揮するのは「素材集め」と「文章化」です。 数字を並べ替える、過去の文書から共通する言葉を拾う、章立てに沿って文章の骨格を作る。 どれも「決まった形式に、情報を当てはめる」作業だからです。

「下調べ」のうち、社内データの整理はAIに向いています。一方で外部の市場統計や競合の最新動向は、 AIが自分の知識だけで答えると誤った数字を混ぜてくることがあります。この点は後の章で詳しく扱います。

事業計画づくりで、何時間減るのか

一般的な中小企業(従業員30〜50名程度を想定)の事業計画づくりでよくある作業時間を、AI活用の前後で比べると次のようになります。

作業 いまの時間 AI活用後
前年実績・部門データの整理 4〜6時間 1〜2時間 3〜4時間
業界動向・競合の下調べメモ作成 3〜5時間 1〜2時間 2〜3時間
計画書の初稿(章立て込み)作成 8〜12時間 2〜4時間 6〜8時間
数値目標・シナリオの叩き案作成 4〜6時間 1〜2時間 3〜4時間
社内向け説明資料への落とし込み 3〜4時間 1〜2時間 2時間前後
合計 22〜33時間 6〜12時間 16〜21時間

試算の前提です。

  • 担当者1名が経営企画・総務系の業務として事業計画づくりを兼務しているケースを想定
  • 「AI活用後」の時間には、AIが出した内容を人が読んで直す時間を含む
  • 数値目標・シナリオの時間短縮は、AIが計算式や前提の整理を代行する分であり、 目標そのものを決める時間は含まない(これは人の判断であり、AIでは短縮できない)
  • 業種・事業規模によって作業量は変わる。ここでの数字は目安であり、自社の実際の作業時間を 一度書き出して比べることをすすめる

差し引き16〜21時間、営業日で2〜3日分の作業時間が、たたき台づくりの段階で浮く計算です。 浮いた時間は、経営者・幹部での話し合いや、現場へのヒアリングに充てられます。

AIに事業計画のたたき台を作らせる手順

いきなり「事業計画を作って」と指示しても、抽象的な文章しか返ってきません。 材料を渡す順番と、章立てを先に決めることが重要です。

手順1:前年実績を先に読み込ませる

売上・原価・主要な部門別の数字を、表の形でそのままAIに渡します。文章で説明し直す必要はありません。

手順2:章立てを先に指定する

事業計画書に必要な章(市場環境・自社の現状・来期方針・数値目標・アクションプラン・リスクと対策)を 先に伝え、その章立てに沿って書かせます。章立てを指定しないと、AIは一般的な構成で書いてしまい、 自社の実情に合わない資料になります。

指示文の例です。

以下は当社(従業員◯名、業種:◯◯)の前年実績データです。
[ここに前年の売上・原価・部門別数字を貼り付ける]

このデータをもとに、来期の事業計画書のたたき台を作成してください。
章立ては次の順で固定してください。
1. 市場環境(業界の動き・自社に関係する変化)
2. 自社の現状(強み・弱み・前年実績からの示唆)
3. 来期の方針(方向性の案。数値は仮置きでよい)
4. 数値目標の叩き案(前提条件を明記すること)
5. アクションプラン(誰が・何を・いつまでに)
6. 想定されるリスクと対策

外部の統計・調査結果を引用する場合は、必ず「(要確認)」と書いて、
出典が確認できていないことが分かるようにしてください。
断定的な数字は、前年実績から計算できるもの以外は書かないでください。

「◯◯を自社の内容に置き換える」のは、業種・従業員数・前年実績データの3か所です。 最後の2文((要確認)の指定と、断定禁止の指定)を外すと、AIが根拠のない数字を 断定的に書いてしまう確率が上がります。必ず入れてください。

手順3:章ごとに分けて出させる

一度に全章を出させると、後半の章が薄くなりがちです。1章ずつ出させて、 その章の内容を確認してから次の章に進むほうが、手直しの手間が少なくすみます。

AIが作れないもの・経営者が必ず決めること

次の3つは、どれだけAIの精度が上がっても人が決める部分です。

  • 来期の目標数値そのもの:AIは前年実績から複数のシナリオ(横ばい・微増・強気)を 提示できます。どのシナリオを採るかは、資金繰りや市場環境の読みを踏まえた経営判断です
  • 投資・人員配置の優先順位:限られた予算や人員を、どの事業・どの部門に振り分けるかは、 社内の力関係や取引先との関係など、文書化されていない情報を踏まえた判断です
  • 社外に見せる最終的な言い回し:金融機関や取引先に提出する計画書は、 どこまで踏み込んだ表現にするかで印象が変わります。この調整は最終的に人が行います

AIが作るのは、これらを話し合うための「たたき台」です。たたき台があることで、 白紙から議論を始めるより、話し合いの時間そのものが短くなります。

数字の裏取りをどうするか

事業計画づくりでAIを使うときに、最も注意が必要なのがここです。

AIは、業界の市場規模や統計データを聞かれると、それらしい数字を作って答えることがあります。 一見もっともらしい数字でも、出典が確認できないものは事業計画に使えません。

対策は次の3つです。

  • 外部の統計・調査データが必要な章では、AIに数字を作らせず「(要確認:◯◯の統計)」と 書かせるよう、あらかじめ指示文に入れておく
  • 「(要確認)」が付いた箇所は、公的機関や業界団体の発表資料など、一次情報を人が確認してから埋める
  • 自社の実績データ(前年実績・部門別数字)は、社内で確認済みの数字だけを渡す。 AIに社内の数字を推測させない

前年実績のような自社データは、AIに推測させる必要がないので裏取りの手間はかかりません。 手間がかかるのは、外部の市場データや業界動向を計画書に盛り込む場合です。 そこだけは「AIに任せる」ではなく「AIに空欄を作らせて、人が埋める」という分担にします。

社内共有・社外提出前のチェックリスト

たたき台ができた段階で、次を確認してから社内共有に回します。

  • (要確認)の印が付いた箇所が、すべて確認済みの数字に置き換わっているか
  • 数値目標の前提(何を根拠にその数字を置いたか)が、章の中に書かれているか
  • 前年実績と矛盾する記述がないか(AIが前年の数字を読み違えて書くことがある)
  • 社外に出す場合、取引先名や個人名がそのまま入っていないか
  • 断定できない見通しに「見込み」「想定」などの言葉が付いているか

このチェックは、AIではなく人が行う工程です。たたき台の作成時間を短縮した分を、 この確認作業に充てることで、精度を落とさずに全体の時間を圧縮できます。

よくある質問

Q. AIに事業計画を作らせると、他社と似たような計画になりませんか。

前年実績や社内の数字を渡さずに「事業計画を作って」とだけ指示すると、一般的な内容になりがちです。 自社の実績データと、章立ての指定を先に渡すことで、内容は自社固有のものになります。 AIが作るのは骨格であり、中身の数字は渡したデータ次第です。

Q. AIが作った数値目標を、そのまま来期の目標にしてよいですか。

してはいけません。AIが出すのは、前年実績から機械的に計算した複数のシナリオです。 どのシナリオを来期の目標にするかは、資金繰りや市場環境を踏まえた経営判断であり、 本文で述べたとおりAIに任せる範囲の外です。

Q. 銀行に提出する事業計画書も、同じ手順で作れますか。

初稿づくりまでは同じ手順が使えます。ただし提出用の資料は、金融機関が見る観点 (返済能力・資金使途の説明など)に合わせた調整が必要です。この調整は最終的に人が行う部分として、 本文の「社外に見せる最終的な言い回し」に該当します。

Q. 従業員10名程度の小さい会社でも、この方法は使えますか。

使えます。前年実績のデータ量が少ない分、素材集めにかかる時間はもともと短めですが、 文章化(初稿作成)にかかる時間はAI活用の効果が出やすい部分です。

Q. AIに社外秘のデータを読み込ませても大丈夫ですか。

使っているAIツールの利用規約で、入力内容が学習に使われる設定になっていないかを確認してください。 無料版では既定でオンになっている場合があります。法人向けプランや設定変更で オフにできることが多いので、利用中のAIツールの法人向けデータ取り扱い設定を 公式サイト・設定画面で確認した上で(仕様はツールと契約プランごとに異なります)、 社外秘データの扱いを社内ルールとして決めてから使うことをすすめます。

理解度チェック

読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。

Q1. 事業計画のたたき台づくりで、前年実績の整理や競合の情報収集はAIに任せやすい業務である。

— 決まった形式に情報をまとめる作業として、本文でAIに任せやすい業務に挙げている。

Q2. 来期の売上目標の数字そのものを、最終的にAIに決めさせてよい。

× — 目標数値の決定は経営判断であり、本文では必ず人が決めると書いている。

Q3. AIが作った事業計画のたたき台に出てくる数字は、そのまま資料に転記してよい。

× — AIが出す数字は根拠の裏取りが必要で、確認済みの数字だけを本番資料に反映すると本文に書いている。