月次決算を早く締める|AIで前倒しできる作業
月次決算でAIに任せられるのは「証憑の読み取りと転記」「仕訳の下書き作成」 「試算表からの報告コメント下書き」の3つです。一般的な業務量から試算すると、 経理担当者1人あたり月11時間前後が空く計算になります(後述の試算)。 一方で、試算表の数字が動いた理由を調べることや、最終的にその数字を 確定させる判断は、引き続き人が行う必要があります。任せる部分と 任せない部分を分けて考えると、決算を締めるまでの日数は縮められます。
月次決算のどこに時間がかかっているのか
月次決算が毎月同じくらいの日数を要する原因は、「難しい判断をしている」 からではなく、「証憑を集めて内容を確認する」「数字を仕訳の形に直す」 という繰り返し作業に時間を取られているためです。工程ごとに分けると、 AIに向く部分と向かない部分がはっきりします。
| 工程 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 1. 証憑の回収 | 請求書・領収書・明細を集める | 人 |
| 2. 証憑の読み取り・転記 | 日付・金額・取引先名をシステムに入力する | AI |
| 3. 仕訳の下書き作成 | 転記したデータから勘定科目・金額の候補を作る | AI |
| 4. 仕訳の確定 | 下書きの内容が正しいか確認し、本番データに反映する | 人 |
| 5. 試算表の作成 | 確定した仕訳を集計する | AI(会計ソフトが自動集計) |
| 6. 差異のチェック・原因調査 | 前月・予算との差が大きい項目を調べる | 人 |
| 7. 月次報告用コメントの下書き | 数字の動きを文章にする | AI |
| 8. 報告内容の確定・共有 | 数字と文章に誤りがないか確認し、経営層へ報告する | 人 |
AIが力を発揮するのは、証憑という「材料」を、仕訳や文章という 「決まった形」に変換する部分です。数字が動いた理由を考えることと、 最終的にその数字で良いと判断することは、会社の状況を知っている 人にしかできません。
証憑のとりまとめ・突合はどこまで機械に渡せるか
請求書や領収書をスキャンして日付・金額・取引先名を読み取る作業は、 決まった項目を拾い出すだけの作業なので、AIに向いています。 複数の証憑を並べて金額が一致しているか確認する突合作業も、 機械的なルールで判定できる部分は任せられます。
ただし、次のような判断は人が残す必要があります。
- 証憑に書かれた内容が実態と合っているか(架空の取引でないか)の確認
- 金額が一致しない場合に、どちらが正しいかを取引先に確認する作業
- 領収書が無い・内容が不明瞭な支出をどう扱うかの判断
読み取り自体は速くなっても、「この支出は本当に正しいか」という 最終確認まで機械任せにすると、誤りに気づかないまま数字が固まって しまいます。
仕訳の下書き作成、どこまで任せられるか
会計ソフトに搭載されているAI機能や、汎用のAIツールに取引内容を 渡すと、勘定科目・金額・摘要の候補を含んだ仕訳の下書きを作れます。 毎月ほぼ同じ内容が繰り返される取引(家賃、通信費、リース料など) ほど、AIの下書き精度は安定しやすい傾向があります。
一方で、次のようなケースは人が確認する必要があります。
- 新しい取引先・初めての支出内容で、勘定科目の判断に迷うもの
- 按分が必要な費用(複数部門にまたがる経費など)
- 税務上の扱いが変わる可能性がある取引(交際費は租税特別措置法第61条の4、寄附金は 法人税法第37条で損金に算入できる範囲が個別に定められています。自社の取引が どちらに当たるかの判断は顧問税理士に確認する必要があります)
AIの下書きをそのまま本番データに反映するのではなく、「下書きを 人が見て確定する」という一段階を挟む運用にすることで、 誤りが決算書に残るリスクを抑えられます。
試算表チェックと差異調査、AIに任せられない理由
証憑の読み取りと仕訳の下書きが速くなっても、月次決算の締めが 遅れる最大の要因は「試算表を見て、なぜこの数字になったのかを 調べる」工程にあることが多いです。
この工程は次の理由でAIに任せにくい部分です。
- 差異の原因は、現場で何が起きたかという情報(値上げ交渉、 一時的な大口受注など)と数字を突き合わせないとわからない
- 「今月だけ多い」のか「今後も続く」のかの判断には、 経理担当者が持つ社内の事情の知識が必要
- 差異の説明が経営判断(値引きの是非、発注量の見直しなど)に 直結するため、最終的な解釈は人が行う必要がある
AIに任せられるのは、「前月と比べて◯◯円・◯%変化した項目を 一覧にする」という洗い出し作業までです。その先の「なぜ」を 埋めるのは人の役割のままです。
月次決算全体で何時間・何日前倒しできるか
一般的な業務量から試算すると、AIに証憑の読み取りと仕訳下書きを 任せた場合の作業時間は次のようになります。
前提は、従業員30名規模の会社で経理担当者1名が月次決算を 一人で締めているケース、月間の取引件数を中規模程度(証憑 100〜150件前後)とした場合の目安です。
| 作業 | いまの時間 | AI活用後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 証憑の読み取り・転記 | 8時間 | 3時間 | 5時間 |
| 仕訳の下書き作成 | 6時間 | 2時間 | 4時間 |
| 試算表チェック・差異調査 | 5時間 | 4時間 | 1時間 |
| 月次報告用コメントの下書き | 2時間 | 0.7時間 | 1.3時間 |
| 合計 | 21時間 | 9.7時間 | 約11.3時間 |
差異調査の時間があまり減らないのは、この工程が人の判断中心 だからです。一方、証憑の読み取りと仕訳下書きは機械的な作業の 比率が高いため、削減幅が大きくなっています。
1日あたりの実働時間を8時間とすると、約11時間の削減は 1.4日分に相当します。決算を締めるまでに6営業日かかっていた 会社であれば、証憑の回収状況に左右されない前提のもとで、 1日から1日半ほど前倒しできる計算になります。
前倒しを始めるときの進め方
いきなり全工程をAIに任せようとすると、確認が追いつかず かえって時間がかかります。次の順番で始めると混乱を避けやすく なります。
- まず、証憑の読み取り・転記だけをAI機能付きの会計ソフトに 任せてみる。転記ミスが減るかを1〜2ヶ月試す
- 次に、毎月ほぼ同じ内容の取引(家賃・通信費など)に限定して 仕訳の下書きを試す。新しい取引・按分が必要な取引は当面 人が仕訳を作る
- 下書きを人が確認する手順を文書化する。「誰が」「何を見て」 確定させるかを決めておかないと、確認が形骸化しやすい
- 差異調査・報告コメントの下書きは、試算表が固まった後の 最後の工程として導入する。数字が確定していない段階で コメントを作ると手戻りが増える
導入する順番を材料が単純な工程から始めることで、ミスが起きたときの 影響範囲を小さく保てます。
よくある質問
Q. 会計ソフトのAI機能を使えば、経理担当者は不要になりますか。
いいえ。AIが担うのは証憑の読み取りや仕訳の下書き作成までです。 下書きの確認、差異の原因調査、数字を確定させる判断は引き続き 人が行うため、担当者自体が不要になるわけではありません。
Q. 小規模な会社(従業員10名前後)でも効果はありますか。
証憑の件数が少ない会社ほど、そもそも月次決算にかかる時間が 短いため、削減効果の絶対値は小さくなります。ただし、証憑の 読み取り・転記という作業そのものは規模にかかわらず発生するため、 一定の削減は見込めます。
Q. AIに仕訳を任せると、税理士のチェック内容は変わりますか。
税理士が確認する範囲そのものは変わりません。ただし、AIの下書きに 誤りが含まれたまま渡すと確認の手間が増えるため、社内での確定 確認を省略しないことが前提になります。
Q. 差異調査の時間があまり減らないなら、AIを導入する意味はありますか。
証憑の読み取りと仕訳下書きの削減分だけでも、差異調査に充てられる 時間が増えます。原因調査そのものの質を上げるための時間を 確保できる点に意味があります。
Q. 決算が遅れる原因が「証憑が集まらない」ことにある場合、AIで解決しますか。
解決しません。証憑の回収は取引先や社内の他部署とのやり取りに 左右されるため、AI導入とは別に回収ルールの見直しが必要です。
月次決算のどの工程で何時間減らせるかは、自社の取引件数や 証憑の集まり方によって変わります。自社の場合の概算は、
読んだ内容の確認に3問だけ。押すと答えが開きます。
Q1. 会計ソフトが作った仕訳の下書きは、内容を確認せずそのまま本番データに反映してよい。
× — AIの下書きは金額や勘定科目の判定を誤ることがあるため、確定させる前に人が確認する必要がある(本文参照)。
Q2. 試算表の数字が前月と大きく変わった原因を推測し、対応を決めることはAIに任せられる。
× — 原因の推測には現場の事情を知る人の判断が必要で、AIには任せられない(本文参照)。
Q3. 請求書や領収書に書かれた日付・金額・取引先名をシステムに読み取らせて転記する作業は、AIに任せられる。
○ — 決まった項目を読み取って転記する作業はAIが得意な部分である(本文参照)。
