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経理

電子帳簿保存法・インボイスの事務をAIで軽くする

結論

電子帳簿保存法とインボイス制度で増えた事務は、大きく分けると「証憑の保存」「税率ごとの突き合わせ」 「登録番号の確認」「仕訳への入力」の4つです。 このうち判断が要らない3つ(保存・突き合わせ・入力)は、AIに任せやすい作業です。 残る1つ(取引先が本当に登録事業者かどうかの最終確認や、保存要件を満たしているかの判断)は、 経理担当者が最後まで見る必要があります。 一般的な業務量から試算すると、この3業務だけで担当者1人あたり月10時間前後の余地があります(後述)。

電子帳簿保存法とインボイス制度、何が事務を増やしたのか

この2つは別の制度ですが、中小企業の経理現場ではほぼ同時に負担として現れました。

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類をどう保存するかを定めた法律です。 大きく3つの区分に分かれています。

区分 対象 中小企業での典型例
電子帳簿等保存 会計ソフトで作った帳簿・書類 任意で電子のまま保存できる
スキャナ保存 紙で受け取った書類を画像化して保存 領収書・請求書をスキャンして保存する場合
電子取引 メール・EDI・クラウドサービス経由で受け取った取引データ PDF請求書、ECの領収書など

このうち「電子取引データの保存」は、2024年1月から、紙に印刷しての保存が認められず、 決められた形での電子保存が必要という扱いに変わりました。 ただし、保存の要件に沿ったシステムや社内のルール整備が間に合わないなど「相当の理由」が 認められる場合は、その環境が整うまでは保存時の要件が不要になる猶予措置があります (事前の税務署への申請は不要で、期限も定められていません。国税庁「電子帳簿保存法一問一答 【電子取引関係】」より)。

**インボイス制度(適格請求書等保存方式)**は、消費税の仕入税額控除を受けるために、 登録番号などの記載要件を満たした請求書(適格請求書)の保存を求める制度です。 取引先が登録事業者かどうかで、経理処理の仕方が変わります。

この2つが重なった結果、経理担当者は「届いた請求書が適格請求書の要件を満たしているか」 「取引先は登録事業者か」「保存の形式は正しいか」を、取引のたびに確認する作業が増えました。

電子帳簿保存法でAIに任せられる作業

電子帳簿保存法まわりでAIに任せやすいのは、次のような「決まった手順を繰り返す」作業です。

  • 受け取ったPDF請求書・領収書から、取引先名・日付・金額・税率を読み取って表にする
  • 読み取った内容をもとに、保存時のファイル名を規則どおりに自動でつける (取引先名・日付・金額を並べる、など社内ルールに沿った命名)
  • 紙で受け取った書類をスキャンした画像から、文字を読み取ってデータ化する
  • 会計ソフトへの仕訳入力の下書きを作る

一方で、次のような判断はAIに任せられません。

  • この保存の仕方が電子帳簿保存法の要件を満たしているかの最終判断
  • 訂正・削除の履歴が残る仕組み(いわゆる「真実性の確保」)を社内でどう設計するか
  • 税務調査で説明を求められたときの対応方針

読み取りと形式の整えは機械的な作業なのでAI・OCR(文字を画像から読み取る技術)が得意で、 「これで法律上の要件を満たしているか」は経理担当者・税理士の判断が必要という線引きです。

インボイス制度でAIに任せられる作業

インボイス制度まわりでAIに任せやすいのは、次のような突き合わせと確認の作業です。

  • 受け取った請求書から登録番号(法人は「T」+法人番号13桁、個人事業者は「T」+マイナンバーとは別に 割り当てられた13桁の数字。国税庁「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」より)を読み取り、 記載の有無を一覧にする
  • 一覧にした登録番号を、国税庁のインボイス登録番号公表サイトの情報と突き合わせて 有効かどうかをリストアップする(最終確認は人が行う前提)
  • 税率(標準10%・軽減8%)ごとに取引を自動で仕分けし、集計表を作る
  • 適格請求書の記載要件(登録番号・税率ごとの消費税額など)が揃っているかをチェックし、 抜けている項目を一覧で示す

任せられないのは、次のような判断です。

  • 登録番号が無い請求書をどう処理するか(経過措置の適用可否など)の最終判断 (2023年10月1日から2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは 50%を仕入税額として控除できる経過措置があり、2029年10月1日以降は適格請求書の保存が無いと 仕入税額控除の対象外になります。国税庁タックスアンサー No.6498より)
  • 取引先が実際に登録事業者かどうかを、最終的にどこまで確認義務があるか
  • 消費税の申告そのものの数字の確定

AIは「揃っているか・揃っていないか」を仕分ける作業までで、 「揃っていない場合にどう扱うか」を決めるのは人の仕事のままです。

どれくらい時間が減るか

一般的な業務量から試算すると、次のようになります。

作業 いまの時間(目安・月) AI活用後(目安・月)
請求書・領収書のデータ化(読み取り・入力) 8時間 3時間 5時間
登録番号の記載確認・一覧化 3時間 1時間 2時間
税率ごとの仕分け・集計 4時間 1.5時間 2.5時間
保存時のファイル名整理・格納 3時間 1時間 2時間
合計 18時間 6.5時間 11.5時間

試算の前提:従業員10〜100名規模の会社で、月間の取引先請求書・領収書が おおむね100〜200件程度ある場合の、経理担当者1名あたりの目安です。 登録番号が本当に有効かどうかの最終確認、保存要件を満たしているかの判断、 例外的な取引の処理などはこの試算に含んでいません。取引件数がこれより多い会社、 紙の書類が中心の会社は、この目安より時間がかかります。

何から始めるか

いきなり全部をAI化しようとすると、途中で止まります。次の順番で始めると進めやすくなります。

  1. いまの保存場所と方法を1枚の表にする:どの書類を、どこに、どんな形式で 保存しているかを洗い出す。ここが揃っていないとAIに何を読ませればよいか決まらない
  2. 請求書・領収書の読み取りから試す:判断が要らない作業なので、 最初に着手しても失敗が少ない
  3. 登録番号の突き合わせを次に試す:読み取りができるようになってから、 確認作業に広げる
  4. 最終確認の担当者を決めてから運用に乗せる:AIが出した一覧を、 誰が・どのタイミングで確認して確定させるかを先に決めておく

税理士・会計事務所と契約している場合は、読み取ったデータをどの形式で渡すと 相手側の作業も減るかを、導入前に確認しておくと二度手間になりません。

電子帳簿保存法・インボイス事務のAI活用についてよくある質問

Q. 電子帳簿保存法とインボイス制度は同じ担当者が対応するものですか。 どちらも経理担当者が主に対応することが多い制度ですが、内容は別のものです。 電子帳簿保存法は「保存の仕方」、インボイス制度は「請求書の記載要件と税額控除」を 定めています。AI活用を検討する際も、まず自社がどちらのどの部分で困っているかを 分けて考えると、必要なツールが絞りやすくなります。

Q. 会計ソフトにすでにAI機能がついている場合、追加のツールは必要ですか。 会計ソフトのAI機能でどこまでカバーできるかは製品ごとに差があります。 各社が自社製品のページで個別に機能を公表しているだけで、主要な会計ソフトのAI・OCR機能を 横断的にまとめた公的資料は見当たりませんでした【一次情報なし】。 すでに使っている会計ソフトの機能で足りる部分は、無理に別のツールを追加する必要はありません。 読み取り精度や対応できる書類の種類が不足している部分だけ、追加のツールを検討する進め方が 無駄が少なくなります。

Q. AIに請求書を読み取らせるのはセキュリティ上問題ありませんか。 取引先名・金額などの取引情報を外部のAIサービスに送ることになるため、 利用するサービスが入力データを学習に使わない設定になっているか、 データの保存先がどこかを確認する必要があります。 個人情報や取引先の機密が含まれる書類を扱う場合は、契約前にこの点を確認してください。

Q. 電子帳簿保存法の保存要件をAIが自動で満たしてくれますか。 AIは読み取りやファイル名の整理までを担いますが、 「その保存方法が法律上の要件を満たしているか」の判断まではAIの仕事ではありません。 保存の仕組み自体が要件に沿っているかは、税理士など専門家の確認を受けることをおすすめします。

Q. インボイス登録をしていない取引先との取引はAIでどう扱われますか。 AIは「登録番号の記載が無い」ことを一覧で示すところまでで、 その取引をどう経理処理するか(経過措置の適用など)は会社としての判断が必要です。 2026年8月時点では、2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%を仕入税額として控除できる 経過措置の期間にあたり、翌10月からは50%控除の期間に切り替わります (国税庁タックスアンサー No.6498より)。 この部分を自動で決めさせる設計にはしないことをおすすめします。